「10年早いわ、カジくん」

少年を見下ろしながら、その女性は言った。

口が悪くて、偉そうで、思春期真っ盛りの男の妄想をかき立てるはずの白衣の下は色気のないジーンズとサマーセーター。
薄い化粧は自身を飾るためというよりは、最低限の職場でのマナーを守るためと言ったところだ。
伸ばした前髪ごと全部ひとつにまとめられた長い髪が、ポニーテールと呼ぶには少々低い位置で揺れていた。

『女』を最小限に抑えたその女性の不遜な言動に、少年は振り回される。

「とりあえず、学校一イイ男になってから出直しな」

テーピングを終えた膝をバチンと叩きながら、用は済んだとばかりに彼を部屋から追い立てようとする。

「後悔するぜ、涼子ちゃん」

「先生と呼びなさい、先生と」

負け惜しみの捨て台詞にも、彼女は高圧的な態度を崩さない。

少年が惚れた彼女は、養護教諭――いわゆる保健室の先生であった。
17歳の彼と、23歳の彼女。
絶望的な歳の差『6』に、少年は常に悩まされていた。
中途半端にラッキーセブンでもないところがまた、先行きの暗さを案じているようだ、と。

――今に見てろ。
絶対『学校一イイ男』になって落としてみせるから。