しばらく押し黙った純平が、少しずつ表情を緩める。
次に口を開いた時には、彼なりの精いっぱいの【いつも通り】を演じていた。


「お前、2人っきりになって手出されないように気を付けろよ」

「純平こそ……、ボクがいなくて美紗と2人っきりになっても、襲うなよ」


ボクも演じ返した。
ふざけたことを言いながら、心はひどく冷えていた。


ボクの唇に噛みついてきたのはお前だろ。
ふっと湧いた気持ちは、口には出せない。


ナニモナカッタ。
そう言い聞かせて、ボクもいつも通りを演じた。


少し、寒い。
薄手のブルゾンにしたのは失敗だった。