部屋に案内された際に出された茶は、誰も手を付けぬ内に既に冷め切っていた。

みのりの父は気にせずに茶碗をとって一気にあおり、乱暴にテーブルに戻す。

「はいはい、新しいのをいただきましょうね」

と、みのりの母が腰を上げた。

「お料理、いただきます?」

立ち上がったついでのように、廣岡家の両親へ尋ねた。
随分とのんきな口調だった。


「お前らの顔は二度と見たくない。みのり、お前は勘当だ。さっさと家を出ろ」

すぐに運ばれてきた料理を突きながら、父はずっとぶつぶつとそんなことを言っていた。
溜め息を吐きながら、母がそれを通訳する。

「亮くんの大学の傍で一緒に暮らしなさい。お父さんはそう言ってるみたいだけど、それで大丈夫なのみのりは」


母は分かりづらい父の言葉を正しく変換したらしい。
両親の意思の疎通にも、その内容にも驚いて目を見開いたまま、みのりは小刻みに首を縦に振った。
母は呆れた顔で、また大袈裟な溜め息を吐き出す。


「本当にこんなのでよろしいんですか、廣岡さん」

尋ね、廣岡家の両親が微笑んで頭を下げるのを見て、みのりの父と母は揃って箸を置いた。


「――娘を、よろしくお願いします」