【完結】遺族の強い希望により

前回この家へやって来たあの日、この中の誰か１人でも心から楽しそうに笑っていただろうか。
こんな風に全員に笑顔が戻る日が来るなど、予想出来たろうか。


玲奈は亡霊のようだった。
彼女を支えたくて闇の底から辛うじて這いあがってきたはずの自分も引きずり戻されそうだった。
母親も生気のない顔で、無理のある作った笑いを貼り付けていた。

この家を出て、亮と２人で話した。
玲奈を心配して話し合いを持つのだと思っていたのに、いつの間にか隠していた傷を洗いざらい吐かされていた。
隠すことで守ろうとしたはずの彼の心を抉った。
本音を晒し合い、傷付け傷付き、漸く理解し合った後にはしかし、一緒の未来を望むにはあまりにも大きな壁が立ちはだかった。


あの時はみのりと亮にも玲奈たち母娘にも、幸せな明日を夢に見る余裕すらなかったはずだ。

深い深い穴の底から遥か上に微かに見える出口に向かって必死で手を伸ばし、その距離に心折れ、諦めようともした。
あのまま穴の底で目を閉じてしまってもおかしくなかった。


それが今は、ここに揃った全員が笑っている。