【完結】遺族の強い希望により

「ねえ、お母さんは許せる……?」

蜂蜜レモンを半分ほど飲んでから、漸く玲奈は尋ねた。
誰のことを指しているのかは言わずもがなだろう。

母は肩を竦めた。

「許す許さなじゃないでしょ。お父さんの最後の我が儘よ、聞いてあげないわけにいかないわ」

苦笑まじりの言葉だった。

つまり歪んだ報道によって汚された父の名誉は、結局晴れることがないのだ。
称賛に値する最後の命懸けの人命救助さえ、誰にも知られることなくただ自分たちの胸にしまっておくしかないということだ。
それが父の――高嶋隆司という男の、遺志だから。


「でも、そうね……」

「うん?」

母はそれきりしばらく黙り込んだ。
どこか遠い目をして明後日の方向をぼんやりと見ている。
南――あの国の方角だ。
たまたまなのか視線の先に何かを見ているのかは、玲奈には分からなかった。