【完結】遺族の強い希望により

――彼女たちの存在は、玲奈の耳にも入ってしまっただろうか。あの子が心配だ。知らずに済むならその方が幸せだったに違いないのに。私に何かあってもしも隠し通すことが出来なくなったなら、必ず伝えて欲しい――


「何か予感でもあったのかな。こんな、遺言みたいの隠しておくなんてね」

「知らなかった? あなたのお父さんはね、物凄く慎重な人だったわよ。いつだって、何に対してもね」


――父はお前を愛していたと――


愛などと、父が口にするのを聞いたことがなかった。
若い頃の交換日記の中にはよくその言葉を見たが、そんな情熱的であからさまな言葉を多用出来たのは、若気の至りとジェシカの異国の気質に感化されていたせいだとばかり思っていた。


「愛、だって」

「あら。嬉しいくせに」

「……うん」

くすくすと母が笑っている。
抱きしめられたまま顔を見られずに済むから、素直に「うん」と言えた。
けれどやはり照れ臭い。

「隠そうとしてたくせに、調子良いこと言ってるよね」

そう言うと、母はまた楽しそうに笑った。