【完結】遺族の強い希望により

母の温もりと一緒に感情が流れ込んだ。
流れ込んで溶け合ってひとつになって、それは増幅はせずに凪いでいく。
触れた場所から、それは恐らく、互いに。
傷付いた心も、恨んだり、復讐を望む気持ちも、穏やかに凪いでいく。


「知ってたのね、お父さん。知ってて黙って……騙され続けたんだわ」


――エラと2回目に会った時、彼女の誕生日が近いことを聞いた。12月のことだ。彼女が私の血を引いていないことは、その時すぐに分かった――


「振りよ、騙された振り。あの人昔から、そういうのが上手な人だったわ」

「意味わかんない」

「……ほんとね」

ふふ、と母が笑った。
可笑しかった。
込み上げてくる笑いが母につられたからなのか、自分の感情なのかよく分からない。

今はそれでも良いと思った。
どちらのものとも分からない感情を母と共有するのは、空いてしまった大きな穴に何かが満ちていくような不思議で温かい感覚だった。