「亮の赤ちゃん、嬉しかったよ私。亮も、無かったことになんかしなくていいって言ってくれたよね?」

「俺だって……一緒に喜びたかった。命があったんだろそこに。俺とお前の子がいたんだろ。無かったことになんかなんねえよ」


みのりの肩を掴んでいた亮の手が、静かに離れた。
その手は彼の顔を隠すように覆い、隙間から嗚咽が漏れる。
初めて亮が、みのりの前で涙を流した。

彼の小刻みに震える背中に手を置いて、みのりは両親を見上げた。
彼女の頬にも涙がとめどなく伝っていたが、それを拭おうともしなかった。
おかげで両親の表情は滲んでよく見えなかったが、恐れず、逃げず、しっかりと顔を逸らさずに向き合った。


「お父さん、お母さん、ごめんなさい。間違ってたって分かってる……分かってるけど、謝れないの。謝れないの、私たち。あの子を、否定したくないから」