【完結】遺族の強い希望により

みのりの目から、涙が落ちた。


「それについては謝罪できません。みのりさんの妊娠は……妊娠したこと自体は、僕にとって、喜ぶべき出来事だから」

亮が、謝らなかったから。
両親の前では見せてはいけない、感動の涙だった。


「……ふざけるな!」

父が椅子を蹴って立ち上がった。

勢い良く後ろに倒れた椅子はこたつの天板に当たって音を立てる。
家具は傷付いたかもしれないが、それを気にする余裕のある者は1人もいなかった。


「学生の分際で貴様!」

「やめて! お父さん!!」

間に飛び込んで止めるには、テーブルが邪魔だった。
ぐるりと回って亮の傍に着く前に、父はまた手を上げてしまう。


「謝罪は出来ません、すみません」

頭を下げ続ける亮の首根っこを掴んで、父は無理矢理その顔を上げさせた。

「何の責任も取れない小僧が調子に乗るな! 責任能力がないなら避妊は男として最低限の義務だろう、そんなことも知らんのか!」