それこそ彼女が大切に持っておきたいものではないのか、と一瞬過ぎった考えは、隆司の妻の立場としては人が良すぎるかもしれないと、すぐに打ち消した。

美和子の表情からその思いを読み取ったかのように、ジェシカは言った。

「私が持っているべきではありません。お読みになった後、不要であれば捨ててください」


覚悟を聞かされた、と思った。
この女は今でも隆司を愛している。
けれど彼の妻である自分を目の前に、その想い自体が罪なのだと認め、想いを断ち切る宣言をしているのだと。

本当にいいんですね? と喉元まで出かかった確認の言葉を、美和子は辛うじて飲み込んだ。
これはきっと、ジェシカが自らに与えた罰なのだ。


「それからこれは」

と、缶の底の方から古い手帳を出し、子どもを身ごもった頃の日記だと言って差し出した。
何の証拠にもならないけれど、と。


最後に出された封筒だけ、表書きがなかった。
日本から送られたエアメールではないのは明らかで、それどころか封もしたままだ。


「本当はお会いした時に一番最初にお渡しするべきものだったのかもしれません。私は中身を存じませんので、何とも申し上げられないのですが――。これはあの人から、あなたに宛てられたものです。お預かりしておりました」