彼の救出劇は期待したよりは少々不格好ではあるが、本人には気付かれぬよう、自分が上手く演出して彼を英雄に仕立てよう。
クロエにはそう出来る自信があった。


失いかけた後、彼は自身にとって孫がどれだけ大きな存在かを思い知るだろう。
そしてその大事な存在を自らの手で守ったという事実は、彼の誇りとなるだろう。

彼は迷うことなく日本を捨てて、こちら側へやって来るに違いない。
彼自身がそう心を決めてさえくれれば、後はどんな妨害が入ろうとも、家族で力を合わせて撥ね退けることが出来るだろう。

幼い頃から母に言われ続けてきたことを、今自分が、漸く成し遂げるのだ。


クロエが事態の深刻さに気が付いたのは、彼がもう一度水に潜ったその瞬間だった。

泳いでいるのではない。
潜ってこちらへ向かっているのではない。
隆司は溺れていた。
もがきながら少しずつ、水中に沈んでいった。