宿泊しているのはシングルルームだったが、2人が対面で座ることの出来る小さなテーブルと椅子2脚は備わっていた。
その片方にジェシカを座らせると、美和子は彼女ためにコーヒーを用意した。

もて成すためではなく、自分はあくまでも最低限の常識をわきまえた人間であるという無言のアピールだ。
自分の分は淹れず、対面の椅子にも掛けないのが静かな意思表示だった。


ジェシカは促された席に着いてから、両手を膝の上で握りしめてじっと俯いたままだ。
その視線の先にわざと置いたコーヒーカップにもぴくりとも反応しなかったし、当然手をつけようともしない。

なかなか話し出そうとしないジェシカに痺れを切らし、美和子は話のきっかけとして一番当たり障りのなさそうな質問をした。

「お孫さんは、何故あのように拘束されていたのですか」