【完結】遺族の強い希望により

彼も冷静ではなかった。
抱きしめた腕には力加減もなく、苦しいくらいだった。
ごめんの雨が降ってくる。
数えきれないごめんの中に、みのりが一番恐れていた言葉はなかった。

『妊娠なんかさせてごめん』――もしもそう言われたら、発狂してしまいそうだった。
だがそれどころか彼は。


「もしも一緒にいられたら……、赤ちゃん、喜んで、くれた?」

「当たり前だ!」


身じろぎも出来ないほどのきつい抱擁の中で、みのりは辛うじて顔を上げた。
見たこともない情けない顔をした亮の鼻は赤くなっていて、今にも泣いてしまいそうだった。

学生が妊娠する、本当の事態の重さを彼は分かっていない。
甘く見てただ幸せを感じて、1人でもなんとかなると考えていた頃の自分と同じだった。


それでもみのりは、亮の言葉、その気持ちが嬉しかった。