【完結】遺族の強い希望により

「ここまで来て、まさかやってないなんて」

と、どうやら亮が言っているのはライトアップのことだった。
ホットレモンを握りしめる両手に無意識に力が入っている。
ふう、とひとつ、気付かれないように息を吐き出して落ち着かせた。

「別に、亮のせいじゃないし……」

「でも」

「それにっ!」

言葉を、互いに遮りあった。
先に折れたのは亮の方だ。
口を噤んで、みのりに先を譲るように視線を寄越した。


「――話、しにきたんだから。静かで人が見てなくて、座って話せて、十分でしょ」


心にもないことをそれっぽく見えるように喋ることに、少しずつ、慣れてきているような気がしていた。

破片がボロボロと剥がれ落ちていくような感覚だった。
そのどれもがみのりであり、みのりでない。
落ちたのが本物なのか残ったのが本物なのか、全部偽物なのか。

ホットレモンのアルミ缶にふたつ、彼女の親指の爪が食い込んだ凹みが出来ていた。