【完結】遺族の強い希望により

亮の隣に腰を下ろそうとしたみのりは少し惑い、結果2人の間には、人1人分の不自然な隙間が生まれた。

繋いでいた手は彼が先にベンチに座った時に自然に離れてしまっていた。
今さら自分の方から手を伸ばすことも出来ずに、さっきもらったホットレモンから暖を取るように両手で包み込む。


『これがほとんど知られてないなんて勿体ないな』

『でも、おかげで貸切だよ。すごい贅沢だよね』

『……誰にも教えてやらねえ』


同じ会話が、今亮の中で再生されているかどうかは分からなかった。
あの時、言外に来年の約束をしたつもりになっていた。
誰も知らないとっておきの秘密の場所に、また2人だけでやって来よう、と。

だから亮は、『誰にも言わなくて良かった』と言ったのだろうか……それともただの聞き間違いだっただろうか。


「ごめんな」

「……えっ!?」

唐突な謝罪に、一瞬、何の前振りもなく話が始まったものかと思い、みのりは慌てて上擦った声を出した。