玲奈はこれまで、自ら進んで父に線香をあげようとは一度もしなかった。
だが今日は食事の前に祭壇の前に座り、香をあげて鈴を鳴らした。

心境の変化は、父の過去を垣間見たことで起こったに違いなかった。
父はやはり、自分が愛し信じてきた通りの父であった。


まだ最後の手紙が残っている。
それを見てまた気が変わるのかどうか、彼女には予想もつかなかった。

そこにはまだ、受け入れがたい事実が残っているのかもしれない。
再び父を恨み、責めることになるかもしれない。


だからこそ父への疑いの気持ちが晴れている今だけは、遺影にしっかりと向かい合って手を合わせたいと思った。