教室にゴミ箱を戻した後、カバンを持ってすぐに花壇のある中庭に向かった。

着くと、井崎さんがしゃがんで私の花壇を見ていた。私も隣にしゃがみ込む。
オレンジのガーベラに白いカモミール…あともう一つ、私の好き花が咲いていた。



「全て綺麗に咲いて良かったね」

「ううん。手入れ上手な井崎さんのおかげ。私は水あげて雑草取ってただけ」

「それでも十分な手入れだよ〜
にしても、ガーベラとカモミールはわかるけど、どうして“ワスレナグサ”なんて珍しい花を育てようと思ったんだい?」



色鮮やかにガーベラとカモミールが咲いてある隅に、“ワスレナグサ”が数本咲いていた。

ガーベラとカモミールは井崎さんから勧められたものの中で選んだ2種で、唯一ワスレナグサは、私が望んで育てたものだった。



「私が…好きな花なんだ…」

「へぇ…そうなの」

「ん………ね、この3つの花言葉知ってる?」



私は花を指差しながら言った。
井崎さんはゆっくり首を振る。



「ガーベラはいろいろあるんだけど、一般的に“希望”や“常に前進”って意味があるの。特にオレンジ色は“我慢強さ”って言葉があるんだって。
カモミールの方は“逆境に耐える”とか“逆境で生まれる力”なんだよ」

「おや、そうなのか…そいつは、あおちゃんに力をくれる花なんだね」



井崎さんは悲しそうに微笑みながら言った。これは事情を知っている井崎さんだからみせる表情だ。でも、返事をしなくても彼はわかってくれている。
私は何も言わずにうなずいた。



「じゃあ、ワスレナグサはどんな花言葉があるんだい?」

「ワスレナグサってね。漢字で“勿忘草”って書くん…だけ、ど……」



そこでピタッと話をやめる。急に説明が止まったので井崎さんは不思議そうな顔をしていた。

その顔に気づかないまま私は、もしかして…と、何気無くカバンを開いた。



「……あ、ああぁあぁあああぁあ!!!!!!!!」

「!!?!??
どど、どうした!?びっくりしたな〜」



心配そうに見てくる井崎さんに、わなわなとカバンから一枚の紙を取り出し、見せた。



「…は、反省文……渡してなかった…」