コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~



 彼女は完全に体をこっちへと向けて、両目を見開いているようだった。そりゃ驚くよな、そりゃあな。

「あの・・・」

「――――――――」

 何て言っていいのか判らないんだろう。だって反対の立場なら――――――――俺だって、何て言えばいいか判らないはずだ。

 だから、ここはもう一頑張りが必要だ。水中のキックも陸上のサーブも外せない。俺は勝負運があったはず。それは確かにあったし、本番には強かったはず。だからだからだからだからだから、大丈夫――――――――――

 コホンと一度咳払いをして、前を見たままで口を開いた。

「そういうわけ、だから・・・俺、そのー・・・」

「うん」

「・・・」

「・・・」

 ・・・ダメ。もう無理っす。息が続かない。体力ももたない~!

 好きなんだ、とは言えないままで、汗をかいた手のひらを握りしめた。

「うわー、マジでこれって・・・恥かしいもんだな」

 もう死にそうになって言った俺の言葉に、相変わらず小さい声で佐伯が返す。

「えーっと・・・うん」

 苦笑した。なんか二人で幼稚園児みたいだって思って。

 だけどその笑いで、肩の力が抜けたのだ。もうどうせ顔が真っ赤なのはばれてるはずだ。俺はやっと佐伯に向かって言葉を出した。今の一番の望みを。

「一緒に帰ろっか・・・」


 頷いてくれただけで、俺は生き返れたって思えたんだ。


 横内航、無事に荒波から生還いたしました。そんな気持ちで、彼女と一緒に学校を後にした。