あの真剣で、泣きそうな顔をしていた仁史先輩。普段は後輩をからかって楽しむ笑顔の多い先輩だけど、試合が近づくにつれて歯をくいしばるような表情が増えていた。
それからやる気満々で自信たっぷりにコートを駆け回る幸田も。幸田は名実ともに我が校のシングルスのエースだ。実際は多分、他が思っているよりもプレッシャーを感じているに違いない。
一年も二年もそれから正式には引退しているけどこの試合には全員が参加する3年生の元レギュラー陣も。
今日は、勝ちに行くんだ。
空をみていたはずなのに、思考は簡単に色んなところへと飛んでいく。
今までの人生で、晴れ舞台に立ったときとかその他のことも。
一番下のランクだったし負けてしまったけど、ちょっとだけでも全国大会を経験できたバタフライの試合、あのプールに飛び込んだときの感覚とか。もっと遡って小学生の時、クラスで一番のタイムをとれて喜んだ水の中から見た、眩しい太陽と先生の笑顔とか。それから学校の中庭、強烈な夕日を避けて筋トレに励む最近の皆の姿とか。ボールの黄色、空の青、それから佐伯の―――――――――――
ぱし、と音をたてて、自分で頭を叩いた。
ダメダメ、今日は一切あの子のことは忘れること!そんな余裕はないんだっつーの、俺は特にテニスがうまい部員じゃない!
青春を感じるのはスポーツで、そういう日のはずだ。
俺にはまず、やらなきゃならないことがある。



