ほら、望んだとおりになった。俺は満足してニコニコと笑う。彼女が心配して温かいものをくれる、そんな単純なことがやたらと嬉しいのも、恋愛最初の魔法なのかも。だけどそれならそれで、しっかりと味わっておこう。
鼻の頭を寒さで赤くして、二人で一緒に缶ジュースを飲んだ。今は別に夕方じゃなんだし、風のないところに行けばいいのにって自分に突っ込んでいたけど、屋上にいたかったのだ。
だって、ここは人気がないのだから。校舎の中ではいつ誰に見付かるとも限らない。特別この付き合いを秘密にしているわけではないけれど、誰かに発表したわけでもない。まだまだ気恥ずかしい状態にいて、二人だけっていう時間をひたすら大事にしたいのだった。
人気がない、それが実は、一番重要・・・。
口に含んだ蜂蜜レモンをごくりと飲み込んで、俺は勝手に上昇する体温を感じていた。
だって、もうちょっと近づきたいのだ。
今日。ってか、今。もう本当に、今この瞬間。
誰もいないから。
それに、この青空が綺麗だから。それにそれに、風も強いから。テストが終わったから昼練がなくなったからお弁当も食べたあとだから。
要するに理由は何だっていいのだ。それこそ佐伯が今、そこにいるから、それだけも十分だ。
楽しい雰囲気のままでお互いが黙って空や町並みを眺めていた。
俺は心の中で無駄に数字をカウントしてからゆっくりと深呼吸をする。
ほら、言え。チャンスはものにして始めて意味が出来るんだぞ!
俺はコホンと空咳をした。



