「恋って、認めて。先生」


 硬直する私に代わり、琉生がご両親に向かって穏やかに質問を投げかけた。

「なぜ、そのように思われたのですか?」
「急にぶしつけなことを訊いてしまいました。本当にごめんなさい……」

 お母さんは謝り、事情を説明した。

「もう2ヶ月も前の話なんですけど、5月に夕は、無断外泊したんですよ……」

 無断外泊。きっと、あの夜のことだ……。

 初めて結ばれた時のことを思い出す。私は、どんな顔をしてそこにいたらいいのか分からなくなった。

 抱き合った翌日、席替えの終わった教室で、比奈守君は難しい顔をしスマホの画面を見つめていた。きっとご両親から何度も連絡が入っていたのだろう。彼が何も言わなかったとはいえ、今になってそのことに気付くなんて、私はなんてバカなんだ……。

「今までそんなことはなかったし、夕食の準備にも関わるから友達の所へ泊まる時は前もって伝えるよう常に言い聞かせていました。私達に拒否的な態度を取るものの、あの子はそういう言いつけはちゃんと守る子でしたから、何の連絡もなしに帰ってこなかった日は、さすがに私もお父さんと一緒にきつく注意したんです」
「そんなことが……。それはさぞご心配されましたよね……」

 担任教師の口ぶりで答えつつ、私は強い罪悪感に駆られていた。その原因は私ですと、ここで言えたら楽なのにとも思う……。

「男の子なので、普段はそこまで心配しませんが、それでもやっぱり、何の連絡もなく帰宅しないとなると心配になりました。未成年ですし……」

 お母さんは不安げに私を見つめ、言った。

「あの頃は夕に彼女がいるような感じはしなかったけど、もし女性を理由に帰らなかったのだとしたら、相手は先生以外に思いつかなくて……」
「本当のこと言ってくださいよ、先生」

 お父さんまでもが、詰め寄ってくる。

 ここでごまかすのは簡単かもしれないけど、店の常連として仲良くなったご両親にウソをつき続けるのはつらかった。かといって、本当のことを話したら、それこそ比奈守君ちを再び家庭不和にしてしまうかもしれない。教師のクセに無責任な!夕と別れろ!そう言われるかもしれない。

 どちらにしても悲しい結果になるのが目に見えている。

 どう答えればいいのか分からず口をつぐむ私の隣で、純菜がご両親に尋ねた。

「もし仮に夕君と飛星が付き合っているとしたら、やはり、交際には反対されるのでしょうか?」

 核心を突くような質問だった。当事者の私では恐れ多くてとても訊けないこと。

 当然、反対されるに決まってる。もう二度と比奈守君と二人きりで会えなくなる。別れなければならなくなる。学校に退職願を出せと言われる可能性だって充分ある。

 そんなの嫌だけど、そういうことになると心のどこかで覚悟していたのは本当で、だけどやっぱり、比奈守君と決別する勇気なんて持てなかった。

 握りしめた両手に嫌な汗がにじむのを感じながら、私はご両親の答えを待った。