帰り際、私は比奈守君に合鍵を渡すことにした。純菜に渡してあるものとは別に、もうひとつ作ってある。
「これから来る時は、これ使って?外で待たせるのも悪いし」
「いいの?」
合鍵に手を伸ばしかけ、比奈守君はその綺麗な指先をそっと引っ込めた。
「やっぱり受け取れない、それは」
「え……」
とたんに、不安が押し寄せる。比奈守君は、私とこういう関わり方をするのにためらいがあるんだろうか……。もしかして、後悔してる?
でも、よく考えてみたら、そういう反応をされるのは当たり前だ。
「そうだよね。私達、付き合ってすらいないもんね。なのに合鍵だけ持ってるのも変か……」
「え?」
今度は、比奈守君の方が放心している。
「そうなの……?俺、もう、飛星と付き合ってるつもりでいた」
ポーカーフェイスながらも、傷付いた様子が手に取るように分かった。とはいえ、私も戸惑ってしまう。
「あの、その……。夕とはああいうことしたけど、付き合うって言葉で確認し合ってないから、だから……。夕は、いつから私と付き合ってるつもりだったの?」
慌てる私を見て、比奈守君は複雑ながらも柔らかい表情で答えた。
「公園でキスした時から。ううん。その前から。毎日ラインしてたし、もう、あれは彼氏彼女かなって」
「そっ、そうなの!?そこから!?早くない?」
「そう?」
「そうだよっ。私、夕に好きって言った事ないのに……」
気まずくて顔を伏せてしまう。まさか、そんな前から彼氏だと思っててくれたなんて……。嬉しいけど、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「たしかに言われてないけど、飛星が俺のこと好きなの、見てたら分かるから」
「夕……」
「それに、付き合ってもない人と朝晩ラインしたりエッチとかしない」
「そっ、それはそうかもしれないけどっ!」
比奈守君がそういうことを言うと妙に艶かしいのはなんでだろう。子供なのに、時々色気があるから対応に困る。
真っ赤になっていく私の顔をそっと覗き込み、比奈守君は言った。
「そのうち好きって言わせるから」
「なっ……!見てて分かるならそれでいいじゃんっ」
「好きな人に好きって言われたいの、おかしい?」
「おかしくないけどっ!心の準備が……!」
「昨日の夜はあんなに大胆だったのに?」
私の両手をつかみその背中を玄関扉に押し付け、比奈守君は目の前でささやいた。
「飛星は純粋だね。好きだよ。そういうところ」
「そんな言葉にごまかされないからっ!」
「ごまかしてるのは飛星でしょ?」
言うなり、唇に熱いキスをする。比奈守君の体温と同時に、想いまでがこちらに押し寄せてくるようだ。


