「恋って、認めて。先生」


「……うん。わかったよ」

 私はうなずいた。言いたいことは言った。それでダメならもうどうしていいのか分からない……。

 たとえ距離を置かず無理して会ったとしても、きっと、こうやって意見がすれ違うだけだもんね……。そんなの悲しい、悲しすぎる。

「今日は来てくれて嬉しかった。ありがとう」

 玄関先で見送る私に比奈守君は何も答えず、その代わりと言わんばかりに苦笑し、静かにアパートを出て行った。

 その背中が遠ざかるのが悲しくて、私はアパート前の歩道まで駆けて比奈守君を見送った。もう二度と、彼はここへ来てくれない、そんな気がして、夏なのに寒気を覚えた。


 ーーどのくらいそうしていたんだろう。

 アパート前の夜道で放心状態だった私は、ポケットに入れたスマホの着信音でハッとした。

「もしもし…!」
『飛星〜?大丈夫?』

 エモからの電話だった。今も合コン参加メンバーでカラオケをしているらしく、彼女の電話口からはにぎやかな様子が伝わってくる。

「大丈夫だよ。永田先生が送ってくれたから、何とか無事に帰って来られた。ごめんね、途中で抜けることになって……」
『いーよいーよ、気にしないで〜』

 エモの陽気な対応に、ものすごく救われた。電話をしているこの瞬間だけは、比奈守君との間にあったことを忘れられる。

「心配かけてごめんね。いつの間に寝ちゃったんだろ、全然覚えてなくて……。エモにも迷惑かけたよね…?」
『ううん!全然!さっき永田さん戻ってきてその時に聞いたんだけど、飛星、最近残業続きで大変だったんだって?そんなこと知らなくて無理に誘って、こっちこそ悪かったね』
「ううん!そんなことないよ、誘ってくれてありがとう。とっても楽しかった!」

 永田先生、わざわざフォローしておいてくれたんだ。残業なんて、私は永田先生ほどしてなかったのに。それに、もう家に帰るって言ってたけど、アミさん達のところに戻ることにしたんだ。本当に良かった……。

『ならいいけど、飛星ってそんなにお酒弱かったっけ?大学の時はもっと飲めたよね?』
「最近ほとんど飲んでないからかなぁ」
『そうなんだ!いきなり倒れるからビックリしたよ〜!今日はもうゆっくりしなね?またそのうち遊ぼ!』
「ありがとう。エモも楽しんでね」

 明るい電話は切られ、再び夜の静けさに包まれる。星、綺麗だな……。

 見上げた夜空に、比奈守君と旅行した時の思い出が重なり、涙がこぼれた。