「恋って、認めて。先生」


 距離を置く。その言葉を聞いて、頭より先に体が動いた。

「ちょっと待って!」

 私はとっさに、玄関に向かおうとする比奈守君の左腕を両手でつかんだ。ちゃんと話がしたい!

「傷付けてごめんね。こんなつもりじゃなかったの……」
「……」
「私は今でも夕のことが好きだよ。だけど、だからこそ、結婚のことをああやって簡単に決めてほしくなかった!ウチの親が言ったことは無視していいの。その上で、真面目に自分の将来のことを考えてほしい。夕のしたいことを私のせいで諦めさせたくないの!」

 夢なんてないと冷めた目で言っていた比奈守君が教師になりたいと語ってくれた時、すごく嬉しかった。生徒としてじゃない。彼のことが本当に好きだから、その夢を叶えてほしい。彼の夢の犠牲に、私はなりたくない。

 強い瞳で比奈守君を見つめた。

 心臓が早く動くのを感じながら彼の返事を待っていると、

「飛星の親に言われたことも関係あるけど、それに従って結婚決めたわけじゃない。そうしたかったからした。自分の意思だよ」

 比奈守君は私の目を見て言った。

「俺とのこと親に反対された時、飛星言ってくれたよね。最初は不安だったけど今は違う、俺と一緒に二人にしか作れない関係を作っていきたいって」
「うん、言ったよ」
「あの時、本当に嬉しかった。告白した時はまるで相手にしてくれなくて、仲良くなっても俺のこと好きってなかなか言ってくれなかった飛星が、今はそこまで俺のこと思ってくれてるんだって分かって……」
「そうだよ、大好きだよ!でも、だからって夢を諦めてまで結婚なんてしてほしくない!お願いだから分かって……?夕の夢の邪魔はしたくない」

 言い終わる頃、私の頬は涙で濡れていた。

「……邪魔だなんて思ってないのに。やっぱり飛星は、俺のこと男としてじゃなく生徒のひとりとしてしか思ってないんじゃない?」
「そんな…!違う!!」
「ごめん……。信じられない。なんか、俺ばっかり飛星のこと好きみたい」
「夕……」
「今は何言われても心に響かない。飛星の言ってること、分からないから」
「そんな……」

 もう、どうしようもないっていうの!?

 嫌な鼓動が耳まで痛くする。比奈守君は、今まで見せたことのない悲しげな瞳で、告げた。

「合コン行ったり、永田先生と一緒にいたり、結婚喜んでくれなかったり、そうなった理由は分かったけど、やっぱり飛星の気持ちが分からない。俺のこと本当に好き…?しばらく会うのやめよ……」