「恋って、認めて。先生」


 重たい沈黙。スッキリしたのは永田先生だけで、比奈守君と私の間には大きな溝が出来たみたいに感じた。

「……部屋に入ろ?」

 断られると思ったけど、比奈守君は案外素直に「うん」と言ってくれた。その声音からは先ほどのトゲトゲしさがなくて、ちょっとだけ安心する。


 部屋に入ってしばらく経っても私達の間に会話は生まれず、だからといって取って付けたように話題を探すのも白々しい気がして、結局私は無言でお茶の用意をすることしか出来なかった。

 ヤカンでお湯を沸かし、ティーパックの紅茶を淹れた。冷蔵庫の中にペットボトルのアイスティーがあるのに、夏にわざわざそんなことをするのは間を持たせるために他ならなかった。

 エアコンの涼しい風が部屋に満ち、時間をかけて淹れた紅茶が空調で冷めた頃、比奈守君が口を開いた。

「さっきはごめん。あんな人に指摘されるなんて悔しいし腹が立つけど、永田先生の言った通りだよ。一人で勝手に不安になって、飛星のこと疑った」
「ううん。夕は悪くないよ。今日のこと黙ってた私が悪いんだから……。それに、最近会わないようにしてたことも……」
「やっぱり避けてたんだ、俺のこと」

 うんと言えない代わりに、私は小さくうなずいた。

「……そう。今日はどこ行ってたの?永田先生はああ言ってたけど、飛星の口からちゃんと聞きたい」

 まずは最近避けていたことについて追究されるかと思ったけど、なぜかその話はせず、比奈守君は今日のことを尋ねてきた。

「怒らせてしまうかもしれないけど……。友達に頼まれて合コンに参加してた。永田先生とはそこで会ったの」
「合コン……?」

 比奈守君の声音に深い動揺が混ざる。

 やっぱり傷付けたよね?……当然だ。私が同じことをされたら絶対嫌だし、不安になる。そんなこと、はじめから分かっていたはずなのに。

 何が何でも断れば良かった……!後悔先に立たずという言葉がひんやりと頭に浮かんで、胸が痛くなる。

「飛星のことだから、友達に頼まれて断れなかったんでしょ?」
「うん……。でも、だからって軽率だった。私が夕に同じことされたら嫌だもん……。ごめんね」
「仕方ないよ」

 え?分かってくれた……?

 それまでの沈黙を考えると、こうもアッサリした返事がもらえたことが意外だった。

 比奈守君は静かに立ち上がり、冷めた紅茶を見下ろした。空調で冷えた紅茶が、まるで今の比奈守君の心を表しているみたいな気がして、私の胸は緊張で苦しくなる。

「飛星が俺との結婚に乗り気じゃないことも、それが原因で避けてることも、何となく分かってた。さっき永田先生に言われたことも、今飛星が話してくれたことも、頭では理解できる。でも、気持ちが追いつかない」
「え……?」
「しばらく距離おこ……。一人で考えたい。ごめん」