「仕事が手につかないんです。そう言って君は泣いてたな」
「忘れて下さいっ!もう過去のことですからっ」
「そう簡単に忘れられたら苦労しないって」
ですよね。心の中でそう返し、どうしようもない恥ずかしさにジッと耐えていると、永田先生がそっと私の顔をのぞき込んできた。
「あの時と同じ顔してるよ、今の大城先生」
「……そうですか?今は幸せですよ。結婚だって決まったんですから」
「結婚って、比奈守君と?」
永田先生が驚いているのが声音の変化で分かったし、この時私も、自分自身に驚きを隠せなかった。琉生や純菜にすら打ち明けられなかったことを、こうも簡単に部外者の永田先生に話してしまうなんて……。
「ビックリしたな。君達が仲良くやってるのは見てて分かってたけど、もうそこまで話が進んでるなんて。比奈守君は進学希望じゃなかった?学生結婚でもする気?」
「いえ。進学をやめて、卒業後は就職すると言っています」
「……そうなんだ。彼がプロポーズしてきたの?それとも大城先生から?」
「……どっちでもないんです」
私の親に迫られる形でこうなったことを、私は簡単に話した。永田先生は納得したようにうなずき、冷静に言った。
「君がお酒に逃げる理由が分かったよ。ご両親の言い分も分からないではないけど、大変だったね」
「……このままではいけないと思うんです。私は比奈守君に夢を諦めてほしくない」
「そう彼に伝えてみたら?」
「彼は、夢より私を選ぶと言って聞きません。でも、私には分かるんです。結婚したら、いずれ彼が後悔することを」
私はどうして永田先生にこんな話をしているんだろう?
そうだ。悩んでいることに同情されたいわけじゃない。結婚や進学は人生に関わる大きな問題だから、比奈守君にとっても私にとっても最良の選択をしたい。だからこうして無意識のうちに、人生の先輩である永田先生を頼ったんだーー!
さすがと言うべきか、永田先生は、私が口にできない想いを感じ取ってくれていた。
「大城先生は正しいよ。そのまま話が進んだとしたら、比奈守君はいつか君との関係を後悔する」
永田先生は冷静に言った。
「彼は若いから、大人の言うことに影響されやすい。狭い世界しか見ていないしね。でも、結婚したら、男女関係は恋愛感情だけではやっていけなくなる。共同生活だからね。何かを我慢したまま同じ屋根の下に暮らしていたら、いつか限界が来るよ。彼の夢が教師っていうならなおさらだ。結婚後も教師を続ける大城先生を見て、自分もそうなりたかったと考える時が絶対来る」


