まだ始まってそんなに経ってないけど、私はもう帰ろうかな。
席を立った時、アミさんもなぜか同時に席を立った。
「飛星ちゃんトイレ?私も〜」
「あ、はい……」
「一緒に行こっ!」
帰ると言い出せないまま、アミさんと一緒にトイレに向かうことになった。
にぎやかな客席を離れトイレに入ると、何かのクラシック音楽が流れていた。ものすごく静かなその空間は、酔っている感覚をますます強くする。
トイレに行きたかったわけじゃないので、なんとなく洗面台の鏡に映る自分をぼんやり見ていると、私の隣に立ったアミさんも同じように鏡の中を見つめた。
「永斗に好きな人がいることは分かってたんだけどね〜」
「えっ……」
ドキリとした。もしかして、永田先生が私に告白してきたことなど、アミさんは全て知っているのだろうか。
「アイツは何も言わないけどねー、ずっと好きだったから見てたら分かる。って言っても、会うのは本当に久しぶりなんだけどね。前にアイツと会ったのは1年前。高校の同窓会の時だった」
「そうだったんですか……」
寂しげな横顔も綺麗。アミさんは、永田先生に会えるのをずっと楽しみにしてたんだろうな……。
「清川が彼女ほしがってるから合コンしたい。メンバー足りないから参加するだけしてほしい。居てくれるだけでいいから。……そう頼んだら、永斗、やっと来てくれたの」
アミさんは寂しそうにつぶやく。永田先生は友達付き合いが良さそうに見えるから、アミさんから誘えばノリ良く応じてくれそうなのに、なぜここまでする必要があったのだろう?
エモから事情は聞いていたけど、アミさんが合コンまでして永田先生と接する機会を作ったという話が、私はいまいちピンとこなかった。
「普段はああやって皆さんで集まったりしないんですか?」
「男同士ではしょっちゅう会ってるみたいだけど、永斗って変なとこ固くてさ。高校の頃からそうなんだけど、あの見た目に反して真面目っていうか、女と一対一でご飯行くことすら特別な意味に取りすぎるというか……。大学の時も、色んな子から告白されたり遊びに誘われたりしてたのに、彼女以外の女の子とは一切遊ばなかったの」
そうだったんだ。でも、なんか分かるかもしれない。男の人なら、異性にモテたら多少なり調子に乗ったりしそうだけど、永田先生はそんなそぶりが全くない。学校でも、女子生徒に好かれることを自覚して彼女達に距離を置いていたから。


