あまりにも綺麗な姿に、
私はつい見とれてしまった。



想像していた幽霊は、
もっと怖くて
グロテスクな姿をしていた。



「いやー、理解ある人で助かったよ」
「…助かった?」



湊人さんはその場にあぐらをかいた。



「みんな幽霊って聞いただけで怯える」
「……はい。」



ーそりゃそうでしょ。



「世の中にはいい幽霊もいるのに。」
「……はあ。」



私はただ湊人さんの話を聞いていた。
でもまだなんとなく、
現実だと信じきれていなかった。



「俺ね、18歳の時にそこの横断歩道で死んじゃったの。」
「えっ……そこの?」



私は窓の外に目をやった。



ーじゃあ、あの花束は……



「あの花束はね、元カノが供えてくれてるの。俺が死んだのなんて、6年も前なのに。」
「6年…?」



ーじゃあ元カノさんは、まだ湊人さんのこと好きなのかな。



だとしたら、切なすぎる。



「姿とか…見せてあげないんですか?」
「あー…」



湊人さんは、
残念そうに首を横に振った。



「俺たち幽霊は、信じてくれる人にしか姿を見せられないみたいでさ。」
「……はい。」
「元カノはそういうの全く信じてないから、俺の声すら届かないの。」



ー声すら……?



なんて切ないんだろう。



「あ、あのさ。それで俺から1つ頼みがあるんだけど。」
「頼み?身体貸してくれとか?」



冗談で言ってみたけど、
言った直後に後悔した。



ーほんとに乗っ取られたらどうしよ



「はははっ」



そんな私の後悔を
吹き飛ばすぐらい大きな声で
湊人さんは笑った。



その笑顔は本当に綺麗だった。
きっと生前は、
モテモテだったんだろうな。



「そんなこと言うなんて、勇気あるねえ。でもまあ、それと似たような感じだけど…。」
「え!?似たような!?」



ー取り憑かれる〜!!??



「あ、ちがうちがう!そんな怖いことじゃないよ!」



湊人さんは焦った様子で訂正した。



「……じゃあなんですか…?」



おそるおそる聞いた。



「元カノに、幽霊はいるって信じさせて欲しいんだ。」
「……え。」



にこっと笑った湊人さん。
私には笑えなかった。



「え、私、元カノさんと初対面ですよ!?急にそんな幽霊とか言い出したら、変人扱いされますよ!」



私が必死に断ろうとすると、
湊人さんは急に涙目になって、



「この6年間、誰もまともに話を聞いてくれなかったんだ…。君だけが頼りなんだよ…。」



ーうっ……



イケメンの涙目は、
幽霊になってもその効果は絶大。
断れない…。



「……わかりました。やるだけやってみます。」



湊人さんは、
その言葉を待っていたかのように
ぱあっと明るい顔をして、



「ありがとーう!」



と私に握手を求めてきた。
私も手を差し出した。



《スッ》



「…………ん?」



ー通り……抜けた……?



さっきまで夢心地だったのに、
急に湊人さんの存在が
現実味をおびてしまった。



目に見えるものに触れないというのは
人間にとって理解できないことであり、
信じられないことである。



ゾクッと背筋が凍った。



そんな私とは裏腹に、
湊人さんは後ろ頭をかきながら、



「あ、ごめんごめん。」



なんて言いながら笑った。