ザワザワと静かに柳の木が揺れる京の夜。何もかも飲み込んでしまいそうなほど真っ黒な夜空に顔を覗かせるのは、丸く優しい光を照らす蒼い月。


今宵はブルームーンと呼ばれる月が青く輝いて見える夜。満月が一月に2回訪れる日なのだそうだ。


カラコロと下駄の軽い音を響かせて夜の祇園の街を歩く。

久しぶりに着た着物はなんだか重たく感じて歩む足取りも自然とゆったりになる。

琴のお稽古をつけてくれたのは叔母の知り合いの先生。何にも取り柄がないと嫁の貰い手がないなんて言う叔母の私への半ば強制的な習い事に嫌な顔一つせず引き受けてくれた温かな人。

今日も夜遅いから送ってくださると言ってもらったけど、そこまでして貰うには少し気が引けて。

それに

「こんな綺麗な夜だもの、貴方を観れた私は運がいいのね」

蒼く微笑む月にそっと笑みをこぼす。