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「あの時のはな、むちゃくちゃすごかった。だから、…まあ、そんな感じ」
顔を真っ赤にしながら強引に話をまとめた洸太が、あたしの反応をちらちらとうかがっている。
思わず口からこぼれた疑問にちゃんと答えてくれたことと、六年も前のことを洸太がこうやって覚えていてくれたことがうれしい。あの年のバレンタインデーは、あたしの人生のなかでかなり勇気を出した場面だ。まさか、そんなことがきっかけとは、かっこいいだなんて思われていたとは、夢にも思わなかったけれど。だから。
「話してくれてありがとう。すっごくうれしい」
ニヤけた変な顔にならないように気をつけて言うと、洸太もちょっと笑ってくれた。見慣れたはずの笑顔に心臓がはねるのは、ついさっき人生はじめての告白をされたばかりの相手だから。きっとそう、だけど。
「返事は、その、……ホワイトデー、まで、待っていただけないでしょうか……」
「っ!そ、それでよろしいです…」
緊張と照れで変な敬語になったあたしもあたしだけど、ぱっと目を見開いて同じように変な敬語で返事をする洸太も洸太だ。腐れ縁同士、ちょっと似ているのかもしれない。
じゃあ、とかまあ、とかぶつぶつ言って、なんとなく目をあわせてまた二人で笑って、並んでリビングに戻る。
「もう一レースしようぜ」
「次はあたしに勝たせてよね」
「やだね。手を抜くのはおれのポリシーに反する」
「あんたのポリシーはどうでもいいの!」
約束は一ヶ月後。
だけど、まだ緊張したままそわそわと廊下を歩く洸太の背中が、いままでよりかっこよく見えてしまうから。これまで気にもとめなかった笑ったときの目の優しさに、気がついてしまったから。
あたしの返事は、洸太と一緒にいた十年間のあいだに、もう決まってしまっている、かもしれない。
「ああー!インターホン!忘れてた!大切な用事だったらどうしよう…!」
「ははっ!やっぱりはなは馬鹿だなあ」
「ほとんどあんたのせいでしょー!!」
たぶん。
『ケンカときどきチョコレート』 Fin.



