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初めてはなを意識したのは、六年前。
まだ小学生だったあの頃、はなとおれは毎日のように口ゲンカばかりしながらも一緒に遊んでいた。
まあ、男子と女子が、ケンカばかりとはいえいつも一緒にいれば、それなりに目立つわけで。
小学生とはいえ、四年生ともなれば当然、男子も女子も"そういう話題"に食いつくわけで。
『洸太とはなが付き合っている!?』
なんていう噂は、あっという間にみんなに広まった。
いま思えば、なんでもいいから騒ぎ立てて噂話をしたかっただけなんだろうと想像できる。みんな本気でそう思ってたわけじゃなくて、ちょっとした遊びみたいな感覚だったんだろうな。
でも、あのときのおれは、自分がはなと噂されている恥ずかしさをどうにか押し隠すために、違う、と言うことしかできなかった。
「おれがはなと付き合うわけねーだろ!なんであんなやつと!」
「洸太なんてこれっぽっちも好きじゃないもん!」
はなのこと、本気で嫌いなわけじゃなかった。言いあいばかりでも、一緒にいて楽しかった。ただ、噂を否定するためにはそう言うしかなくて。どんどん言葉はエスカレートしていって。
はなもそのはずだって、口ではどう言っても、心の中では同じことを思ってくれてるって、信じていた。
それでも、顔を合わせれば気まずさで何も話せない。一緒にいるところを見られないかどうかドキドキしながら遊ぶのはとても疲れる。
冷やかしとからかいの的になったおれたちは、まるで最初からそうだったかのように自然と、一緒にいることが少なくなった。
男友達とドッジボールしたりゲームで遊んだりする放課後も、つまらないわけじゃなかったけど、それでもやっぱり、少しさみしい。
そんな風に思いながら、はなとは必要最低限のこと以外は話さない日々が続いていく。
だけど、それが当たり前になってしまっていたその年の冬、バレンタインデー。
はなは、おれにチョコをくれた。



