ケンカときどきチョコレート




不思議だなあ。いままでで初めてってくらい、あんなにも気まずかったのに。ふたりとも、もういつもどおりみたい。


こんなふうな会話が、いつからかあたりまえになってたんだ。それこそ、呼吸をするような感覚で。




「あーはいはい。しょうがねえから事故ってことにしといてやるよ」


「む、むかつくっ!サルのくせに生意気なー!」


「サルじゃねえよ!立派な人間!……はあ。心配して損した」



ふっと。ちいさなため息と一緒に洸太から零れた言葉に、とくんと心臓が揺れる。



そっか。あたし、こいつに告白されたんだ。いつもなら笑い飛ばすセリフが、いまさらのようにあたしに突きつける。



ちゃんと理解してる。洸太の気持ちが冗談なんかじゃないってことも、あたしがそれを真剣に受けとめなきゃだめだってことも。



でも。あたしには、わかんない。かっこいいなって思うことはあっても、恋心をいだいたことなんてたぶん、生まれてから一度もないから。


そして、悔しいけど、洸太はかわいい顔をしてる。あたしもそれを認めてる。悔しいけど。



だからこそ余計に、わかんない。


だって、多すぎて選べないくらいデートのお誘いがあったやつなのに。その中には絶対あたしよりかわいい子からのもあったはずなのに。洸太が誰とも付き合わずにあたしを想っていたことが、不思議で不思議でたまらない。



「…あたしのこと、いつからすきだったの?」


ポロっと。こんがらがっていた頭は、自分の声とは思えない情けない声をはじき出した。触れたら割れてしまいそうなそれは、洸太とのあいだにじんわり広がってとける。


サル呼ばわりされたと思ったら急に話題を引き戻すような質問を投げかけられて、驚いたんだろう。洸太は目を白黒させながら、それでも、すごく恥ずかしそうに話しだした。