〔短編〕夏の夜の蛍

民家と祭りまでのカウント


明日は祭りで、明後日には帰らなければならない。

そんなわずかな日数に、野宿と考えるなんて、悲し過ぎではないだろうか?

とりあえず、麻実はなんとか精神を復活させ、大声で叫んだ。


「たのもーーーーーー!」

ドスい麻実の声に、大輝、そして圭太でさえも目をひんむいて驚いた。

「はいはい?」
驚いたことに、小柄な中年女性がひょこり、と顔を見せた。


「ユリエちゃん?ちょっと待って........って、あら、どちらさま?」

「気づくの遅........」圭太はボソリと呟いた。

「あの、この宿に泊まらせてもらえませんか?この村の伝統的な、お盆のお祭りについて興味があったので、来ました」

ざっくり、直球に話す麻実に、おばさんは驚いたような顔をした。

「うーん........主人はどうせいいって言うと思うし........何日くらいかしら?」

「明後日までです」

「そう........まぁそれくらいならいいでしょう」

よほどお人好しなのだろう。
あっさり泊まることを許された。

「そうねぇ、まずは家の中を案内するわ。こちらへ来て。あ、言い忘れたわ、私は大里友子よ。12の年の娘がいるわ。名前は璃子。最近反抗期なのかしらねぇ、友達と遊んでばかりで、勉強をしろと言うとすぐ怒るのよ。でも、根っこは優しい子だから、ね」

案内しながら、朋子はどんどん話し始めた。
どうやら、この年に多い「おしゃべり好きで噂好きな中年おばん」のようだ。

その話しぶりに麻実は話しかけるタイミングを失った。
「あ、そうそう、それでね、貴方達お祭り行くのでしょう?こんな農村、いつもは誰も見向きもしないの。でも、地域の血が巡ってるのよ、結構。でね、お祭りの日だけは、他の町から大勢の人が来るの」

そこで朋子は一息ついた。

洪水のような情報に、大輝は飲み込まれている。頭を整理しようとしている。

「あ、そうそう」

またおしゃべり砲が来るのかと、麻実、圭介、大輝は身構えた。

「ここ、居間。都会でいうとリヴィング?」

本当はリビングだが、あえて圭介は突っ込まなかった。

その居間は、畳が床だった。

ちゃぶ台がトテンと置いてあり、麦茶らしき物が入っている茶碗が置いてある。そして、なぜかちゃぶ台に天丼のどんぶりがあった。

テレビはさすがにブラウン管ではなく、普通のものだった。

そして、テレビの隣には障子があり、そこから縁側が見えた。

これは田舎?それともまだ田舎の都会?

麻実は本気でそう考えた。

一方、大輝は。

ここが田舎なら、ブラウン管テレビが無いといけなくない?

てかトイレ外に無いと。洗濯物って縁側で干すんだっけ?
お邪魔するとき、土下座しないと入れなくない?

やべぇ、土下座してねぇよ。なんで麻実しねぇんだよ、ああもう、あの朋子って人怒ってるって!
それを表情に出してないだけだって!なのにペラペラペラペラ喋るなんて、只者じゃないな、このおばん。

圭太は........

お腹空いたなぁ、大輝を串刺しにして食べようかなぁ。

と、えげつない想像をしていた。

「あ、そうそう」

またおばんは話し始めた。

反射的に身構える麻実、圭太、大輝。
「何よ、貴方達(クスクス)都会では人が話すと防御するの?」

「........いいえ。それより、話しかけましたよね?」

「あら、そうね。貴方達のお名前は?」

いたって普通の質問に、3人は我に返った。
思えば、いきなり泊めてくれと無茶ぶりし、名乗ってもらったのにこちらは名乗らない........考えるほど恐ろしい無礼だ。

「あ、私は........」

「神田中学校テニス部に所属している海崎麻実です」

麻実がなぜ学校まで言ったかというと、試したからである。
強豪テニス部としてその名を全国に轟かす中学校を、果たして田舎の人は知っているのだろうか。

「えーっ、聞いたことあるわね。うちの娘の璃子、テニス部なのよね。だから、テニスの情報をいくつか小耳に挟んだこと、あるわ」

こんな田舎?まで轟くなんて、と麻実は驚いた。