廉はにっこり笑う。

こういうクタックなく笑った笑みを見たのは久方ぶりだ。

このとき、豪造は自分が築き上げてしまった物を悔やんだ。夏海と廉から両親を奪い、更に、廉からは笑みを奪い、冬眞からは戸籍を奪ってしまったのかと、豪造は悔やんだ。

ずいぶん、大きな代償である。

「お前がなそうとしていることに、儂は反対はせん。お前が一番よいと思う形で、選択しろ。それが、儂がお前にしてやれる唯一のことじゃろう」

「もったいないお言葉にございます。私はあなたから、たくさんの物をいただきました。それは、一言では、言い表せない物にございます」

深々と廉は頭を下げる。

「頭など、下げるな。ワシは今、後悔でいっぱいなのだからな。そんなワシから、最後の命を下す。今回は、あやつの力を確かめるってことで、お前は極力オブザーバーに徹しろ。あやつが欲しいと思う情報だけを与えてやれ」

「御意」
 
こうして、終わった二人の会談を岬と忍は知る由もなかった。

パーティ会場は、オープン記念ということでそのホテルで行われた。

都内からずいぶん、離れており、はっきり言って田舎である。
でも、このホテルの売りは、自然にあるのではなく、この建物自体にあった。

何でもヨーロッパから買い取った、いや正確には、奪い取った建物をそのまま移築したのである。

岬のその建物を前にして「綺麗」でもなく、ましや、「すご~い」でもなく「高そう」でもなく、「うわ~、成金趣味の固まりじゃん」だったりする。

夢もヘったくりもないことこの上ない。

でも、場所柄は言うことなしねと岬は思う。

これなら、何かあっても、警察は、すぐ駆けつけられない。

と、岬はニヤケるが、何かが足りない。

それは、あまりにも、ホテルが綺麗すぎるせいだった。

「最初のうちはウケるでしょうけど、すぐ飽きられるのが、目に浮かぶわ」

「確かにな」

廉が頷く。

「でしょ?」

「しかも、自然を満喫出来るとはいえ、こんなに何もないところでは、人を呼べないですし、近場にも人を呼べる施設が、何もないと来てるし。まぁ、難しい話は、はい、終わり。早く行こう」

「ええ、そうですね。行きましょう」

中に入ると、そこはまるで中世ヨーロッパ時代のようだった。

豪華なシャンデリアに湾曲した階段が出迎える。

今日はその下に、テーブルが置かれ、そこが、受付となっているようだ。

その間に両開きのドアがあり、そこが、今回の会場のようだ。

招待客も、もう大勢集まり、話し声が聞こえる。