後日、犯人は捕まった。何でも、結婚翌日に。奥さんが車に跳ねられ亡くなったらしい。同情はするが、だからといって共感はしない。
だって、これから幸せになろうとする人が許せなかったんだって、出入り業者の男が言ってたそうだ。なんて、自分勝手な奴だ。ちなみに、岬はそれを聞き、頭足りてますかっと言ったらしい。
さらに、豪造が、注意をしていた犯人は、なんと他の式場で捕まった。どうやら、式場を間違えたらしく、他の人の式場に潜り込んだらしい。何て、お粗末。夏海は頭を抱えた。もっと、きちんとした調べをしろよ。と、夏海は、思わずにいられなかった。
「キョェ~」
結婚式から、1週間後。庭から何とも、変な雄叫びと、いうか悲鳴がした。夏海と冬眞は何事かと駆けつけると、そこには豪造がひっくり返っていた。頭には何か、打ち付けたと思われる傷が有り、他にも足には擦過傷があった。
『いったい何が?』
近くには、下駄が落ちている。
「やっぱり、事故とかかな?」
運悪く飛ばした下駄が頭に当たったに違いないと推理を夏海が披露すれば、冬眞は笑いながら否定する。
「それこそ考えられないでしょう。あの悪運の強さには、僕でも惚れ惚れしますから。たまたま通りかかった人の頭の上に落とすことはあっても、自分の上になんて、万に一つもありませんよ。それよりは、豪造さんももうお年。もう、何時お迎えがきてもおかしくはありません」
「えー、それこそ考えられないよ。おじいさまを迎えにこれるような剛胆で気概がある死神がいるとは、到底思えないわ」
いるなら会わせて見ろと言うように、胸を張って言えば。こちらは、淡々と冬眞が夏海の案を否定する。
「それを言うなら、事故の可能性も低いのじゃあありませんか?」
「何でよ?」
冬眞は褒め言葉のつもりでいう。ただし、聞いている者にとってはそう感じないものだったが。
「あの豪造さんですよ。夏海さんがおっしゃったように、死神も裸足で逃げていくでしょう。だから、事故なんてことは万に一つもありえません」
「じゃあ、何?」
考え込む夏海。そこに優雅な足取りでやってきたのは廉だった。廉は出勤前であるため、その準備をしていた。その中聞こえてきた叫びに、廉はとうとうやったかと思った程度だった。廉にしてみれば起こるべくして起こった事象にすぎない。だから、駆けつけなかった。
「答えは、まだ出ないかい?」
出社準備が一通り終わってからゆっくりと来る廉。一部の隙もなく、スーツでビシリと決めている。
「廉兄はわかるの?」
夏海が聞く。それに対して、廉はにこやかに微笑むと、
「たぶんね。冬眞も降参かい?」
冬眞はそれに、苦笑いする。
そして、首をゆっくり振る。
「いいえ一つだけ、考えられる可能性はあります。ですがたぶん、それは夏海さんは信じたくないと思いますよ」
「それは、何?」
夏海は身を乗り出して聞く。
「ただ単に、起こるべくして起こった事象に過ぎないんでしょう」
あっさり言う冬眞。廉はただ面白そうに、冬眞を見る。
それに否定的な声を上げたのは、夏海だけだった。
「それって当然ってこと? それこそ、お爺様に限ってないよね?」
と、夏海が廉に言えば廉は面白そうに笑いながら、肯定する。
「さすがだね」
「じゃあ、こうなったのは、必然ってこと?」
「そうだね、冬眞。その分だと、理由もわかっているんだろ?」
「ええ、おおよそはですが、そこは廉さんの見せ場。僕ごときが邪魔をするのは野暮と言うもの」
「君らしいね」
そう言われ、廉は笑う。
「流石だよ。冬眞の頭の働きには目を見張るものがある」
そう誉められ忍は照れる。
「で、何?」
一人蚊帳の外におかれた夏海がブスクレながら言う。
「夏海はこう言うとき、その事象より先にね答えを求めるね、昔から。もう少し自分で考えるようにしなさい。いつも答えを教えてくれる人がいるとは、限らないのだからね」
廉が言えば、ますますブスクレる夏海。
「どうせ数学やれば答案用紙に、ほとんど途中式書きませんよ。でも、答えがでていればいいのよ。だって、みんな分かるでしょ?」
「問題を見れば分かるというのは、たぶん夏海だけだと思うよ」
「そうなんだよね。問題読めば分かるから逆に教えてと言われても、教えてあげられない。どうしてそんなこと聞くのって思っちゃうから」
夏海がそう言えば、廉は目を細めて言う。
「それが、夏海の欠点だね。お前はすぐ答えを求める」
「どうせミステリー読み始めたら、すぐ犯人が分かる後ろにいっちゃうさ」
そう言って、夏海はシュンとしたように項垂れる。
「ま、そこが夏海らしいと言えばらしいがな。答えも間違ってないし」
「でしょう」
すぐ復活する夏海に廉は苦笑いを禁じ得ない。
「それが誰にでも分かるように、書ければ言うことないね」
「鋭利、努力します」
「そうして下さい」
話が脱線しまくりなのに気づいた、廉は話を元に戻す。
「夏海は全くあり得ないと思っているようだけど、私はこれが可能性としては、一番高いと思っているよ」
「それじゃあ、何このおじいさまが、何かに悩み苦しんでいるとか。それこそ考えられないわ」
「まず言っておく。夏海が言ったことは、必ずしも正しいとは言えないよ」
やさぐれまくっている夏海の頭を、宥めるようにポンポンと廉は軽く叩く。
「さっき夏海と冬眞が言ってたように、悪運の強さと死神も逃げ出してしまうようなおじいさまだ。ここまではいいね?」
夏海に確認を取りながら、廉は話を進めていく。
「かといって、これを殺したいと思っている奴は、多いが実際殺しにこれる、勇気のある奴もいない。ここまでもいいかい?」
とうとう、これ扱いされる豪造。だんだんと扱いが雑になっていくのは、たぶん気のせいじゃないだろう。
「うん」
コクリと夏海は肯く。
「つまり、事件性も皆無と考えて良い」
「そうやって、可能性を潰していくと起こるべくして、起こった事象しか残らないってことね」
「ご名答」
大袈裟に廉は拍手をする。
それに、夏海は不満げな顔をする。
「でも、それならおじいさまはなぜそんな起こるべくして起こった事象なら、なにをそんなにやっていたの?」
クスリと廉は笑う。
「だからこそだよ」
「えっ、どういうこと?」
「早い話が、人間そんなには強くあることはできないてことだよ」
「それって、どういうこと?」
廉は、身も蓋もないことを言う。
「ありえなさそうな人間の方が、以外と芯が脆かったりする。だから、突然衝動的かつ短絡的行動に走ってしまうものだよ」
「それって、つまり打たれ弱いってこと?」
夏海も身も蓋もない聞き方をする。
「早い話がそうだね。例えば、孫の奇行とかね」
夏海は、ビクリとする。
「おや? 夏海さん何か心当たりでも?」
廉は笑いながら言う。
「ベ、別にあれは、そんなんじゃなくって」
ゴニョゴニョ言い訳をする夏海。
「心当たりがないのなら、別によろしんじゃないですか?」
廉は薄ら寒い笑みを浮かべながら、到底慰めとはとれない言葉を口にする。
「まぁ、おじいさまのする突拍子のない行動に比べれば。夏海の行動なんて可愛いものだろう。今回の件は、良いクスリになっただろうし」
それを受けて冬馬が言う。
「強すぎるクスリは、逆に毒にもなると言いますがね」
それに対して、
「毒ぐらいで、この人の場合はちょうど良いと思いますよ」
サラリと飛んでもないことを言う廉。3人で勝手なことを言ってると、低いうめき声が聞こえてきた。どうやら、豪造が目覚めたらしい。
「何だ、死んでなかったのか? つまらん」
夏海が言うと、豪造は泣き真似をしながら、
「しどい、なんて冷たい孫なんじゃ。お前たちの中に、儂のことを心配するものは、誰一人としていないのか? よ~く、分かった」
その言葉を受けて廉が言う。
「大丈夫ですか?」
「何が『大丈夫ですか?』じゃ? そんなこと思ってもいない癖に」
ケッケッケーと豪造は言う。どうやら、ここにも機嫌を損ねた人がいるようだ。
「それこそ、心外です。私は心から心配してますよ」
「廉~」
感動したように言う、豪造。だが、続く廉の言葉に豪造の怒りは再熱する。と言うのも、こう言ったからだ。
「もう良いお年、自分の年を考えてやって下さい」
「そう言えばおじいさま、いったい何を占っていたの?」
まさか夏海に、あれを辞めさせるには、どうしたらよいかを占っていたとはいえない。
「さぁ、起きて下さい」
廉が言うと、その場でジタバタする豪造。どうやら立てないようだ。
「ほら、ご自分の年齢を考えたくなったでしょう?」
廉が、そう言うと豪造が怒ったように言う。
「弁護士の小早川を呼べ、すぐに、遺言状の書き直しだ」
小早川とは、神崎の財産管理を一手に引き受けている弁護士だ。もう、60を越えるがまだ現役バリバリの悪徳、いえいえ優秀な弁護士様である。30年前から豪造と意気投合し、顧問弁護士をやってもらっている。額に脂汗を浮かべながら、小早川、小早川という。
「それだけ、口が回れば大丈夫ですね。とはいえ、先生は先生でもまず医師に見せるのが、先です。その後で、小早川先生に連絡するなら、して下さい」
廉は豪造の言葉に取り合わない。廉は豪造を、運び医師を手配する。
「じゃあ、私はもう行くので、お大事に」
時計に目をやり言う。それが、合図であるかのように夏海たちも引く。部屋から出た瞬間、廉は声をかける。
「夏海」
「分かっているわ、今週中には」
夏海は、ビックとし、恐々言うと、廉が冷たい眼差しを向ける。
「今週中?」
廉がジロリと睨めば、夏海はすぐ否定する。夏海はこの時、完敗した(笑)
「今日中に片付けます、はい」
「なんか強制したみたいで悪いな」
したじゃないかと思いながら、夏海は笑って言う。
「いえ、全然」
と、夏海は否定する。
「じゃあ、綺麗にしとけよ」
「はい」
スゴスゴと夏海はリビングへ向かっていく。その後ろ姿を見て冬馬はちょっとかわいそうになる。
「廉さんはあれ、片づくと?」
冬眞が聞く。
「夏海が気に入るのは、2個だけだ。後はゴミ行きだろう?」
「流石ですね。僕も同じです」
「さっさと夏海には片付けてもらうか。正直、俺も藁人形には、もう見飽きた」
「ですね。でも、夏海さんの操縦廉さん上手いですね」
「あいつは俺が育てたようなものだからな。あいつの親は仕事で忙しくみられなかった。だから、亡くなったときもあいつにはテレビで見る人が亡くなったぐらいにしか、思わなかったと思うぞ。それが、京極で生を受けた者の宿命かもな」
遠くを見つめるように廉は言う。
「でも、そんなの悲しいですよ」
「それが、人より恵まれている者の定めだ」
廉はあっけらかんと言う。
「なんか恵まれすぎているのも、考え物ですね」
「そうだな」
廉は、再度時計を見る。
「じゃあな、おまえも夏海を手伝ってやれ。元々おまえのファンからなんだからな」
「ハイ。行ってらしゃいませ」
冬馬は苦笑いで、廉を送り出す。送り出したさっそく冬眞はリビングへと行く。
だって、これから幸せになろうとする人が許せなかったんだって、出入り業者の男が言ってたそうだ。なんて、自分勝手な奴だ。ちなみに、岬はそれを聞き、頭足りてますかっと言ったらしい。
さらに、豪造が、注意をしていた犯人は、なんと他の式場で捕まった。どうやら、式場を間違えたらしく、他の人の式場に潜り込んだらしい。何て、お粗末。夏海は頭を抱えた。もっと、きちんとした調べをしろよ。と、夏海は、思わずにいられなかった。
「キョェ~」
結婚式から、1週間後。庭から何とも、変な雄叫びと、いうか悲鳴がした。夏海と冬眞は何事かと駆けつけると、そこには豪造がひっくり返っていた。頭には何か、打ち付けたと思われる傷が有り、他にも足には擦過傷があった。
『いったい何が?』
近くには、下駄が落ちている。
「やっぱり、事故とかかな?」
運悪く飛ばした下駄が頭に当たったに違いないと推理を夏海が披露すれば、冬眞は笑いながら否定する。
「それこそ考えられないでしょう。あの悪運の強さには、僕でも惚れ惚れしますから。たまたま通りかかった人の頭の上に落とすことはあっても、自分の上になんて、万に一つもありませんよ。それよりは、豪造さんももうお年。もう、何時お迎えがきてもおかしくはありません」
「えー、それこそ考えられないよ。おじいさまを迎えにこれるような剛胆で気概がある死神がいるとは、到底思えないわ」
いるなら会わせて見ろと言うように、胸を張って言えば。こちらは、淡々と冬眞が夏海の案を否定する。
「それを言うなら、事故の可能性も低いのじゃあありませんか?」
「何でよ?」
冬眞は褒め言葉のつもりでいう。ただし、聞いている者にとってはそう感じないものだったが。
「あの豪造さんですよ。夏海さんがおっしゃったように、死神も裸足で逃げていくでしょう。だから、事故なんてことは万に一つもありえません」
「じゃあ、何?」
考え込む夏海。そこに優雅な足取りでやってきたのは廉だった。廉は出勤前であるため、その準備をしていた。その中聞こえてきた叫びに、廉はとうとうやったかと思った程度だった。廉にしてみれば起こるべくして起こった事象にすぎない。だから、駆けつけなかった。
「答えは、まだ出ないかい?」
出社準備が一通り終わってからゆっくりと来る廉。一部の隙もなく、スーツでビシリと決めている。
「廉兄はわかるの?」
夏海が聞く。それに対して、廉はにこやかに微笑むと、
「たぶんね。冬眞も降参かい?」
冬眞はそれに、苦笑いする。
そして、首をゆっくり振る。
「いいえ一つだけ、考えられる可能性はあります。ですがたぶん、それは夏海さんは信じたくないと思いますよ」
「それは、何?」
夏海は身を乗り出して聞く。
「ただ単に、起こるべくして起こった事象に過ぎないんでしょう」
あっさり言う冬眞。廉はただ面白そうに、冬眞を見る。
それに否定的な声を上げたのは、夏海だけだった。
「それって当然ってこと? それこそ、お爺様に限ってないよね?」
と、夏海が廉に言えば廉は面白そうに笑いながら、肯定する。
「さすがだね」
「じゃあ、こうなったのは、必然ってこと?」
「そうだね、冬眞。その分だと、理由もわかっているんだろ?」
「ええ、おおよそはですが、そこは廉さんの見せ場。僕ごときが邪魔をするのは野暮と言うもの」
「君らしいね」
そう言われ、廉は笑う。
「流石だよ。冬眞の頭の働きには目を見張るものがある」
そう誉められ忍は照れる。
「で、何?」
一人蚊帳の外におかれた夏海がブスクレながら言う。
「夏海はこう言うとき、その事象より先にね答えを求めるね、昔から。もう少し自分で考えるようにしなさい。いつも答えを教えてくれる人がいるとは、限らないのだからね」
廉が言えば、ますますブスクレる夏海。
「どうせ数学やれば答案用紙に、ほとんど途中式書きませんよ。でも、答えがでていればいいのよ。だって、みんな分かるでしょ?」
「問題を見れば分かるというのは、たぶん夏海だけだと思うよ」
「そうなんだよね。問題読めば分かるから逆に教えてと言われても、教えてあげられない。どうしてそんなこと聞くのって思っちゃうから」
夏海がそう言えば、廉は目を細めて言う。
「それが、夏海の欠点だね。お前はすぐ答えを求める」
「どうせミステリー読み始めたら、すぐ犯人が分かる後ろにいっちゃうさ」
そう言って、夏海はシュンとしたように項垂れる。
「ま、そこが夏海らしいと言えばらしいがな。答えも間違ってないし」
「でしょう」
すぐ復活する夏海に廉は苦笑いを禁じ得ない。
「それが誰にでも分かるように、書ければ言うことないね」
「鋭利、努力します」
「そうして下さい」
話が脱線しまくりなのに気づいた、廉は話を元に戻す。
「夏海は全くあり得ないと思っているようだけど、私はこれが可能性としては、一番高いと思っているよ」
「それじゃあ、何このおじいさまが、何かに悩み苦しんでいるとか。それこそ考えられないわ」
「まず言っておく。夏海が言ったことは、必ずしも正しいとは言えないよ」
やさぐれまくっている夏海の頭を、宥めるようにポンポンと廉は軽く叩く。
「さっき夏海と冬眞が言ってたように、悪運の強さと死神も逃げ出してしまうようなおじいさまだ。ここまではいいね?」
夏海に確認を取りながら、廉は話を進めていく。
「かといって、これを殺したいと思っている奴は、多いが実際殺しにこれる、勇気のある奴もいない。ここまでもいいかい?」
とうとう、これ扱いされる豪造。だんだんと扱いが雑になっていくのは、たぶん気のせいじゃないだろう。
「うん」
コクリと夏海は肯く。
「つまり、事件性も皆無と考えて良い」
「そうやって、可能性を潰していくと起こるべくして、起こった事象しか残らないってことね」
「ご名答」
大袈裟に廉は拍手をする。
それに、夏海は不満げな顔をする。
「でも、それならおじいさまはなぜそんな起こるべくして起こった事象なら、なにをそんなにやっていたの?」
クスリと廉は笑う。
「だからこそだよ」
「えっ、どういうこと?」
「早い話が、人間そんなには強くあることはできないてことだよ」
「それって、どういうこと?」
廉は、身も蓋もないことを言う。
「ありえなさそうな人間の方が、以外と芯が脆かったりする。だから、突然衝動的かつ短絡的行動に走ってしまうものだよ」
「それって、つまり打たれ弱いってこと?」
夏海も身も蓋もない聞き方をする。
「早い話がそうだね。例えば、孫の奇行とかね」
夏海は、ビクリとする。
「おや? 夏海さん何か心当たりでも?」
廉は笑いながら言う。
「ベ、別にあれは、そんなんじゃなくって」
ゴニョゴニョ言い訳をする夏海。
「心当たりがないのなら、別によろしんじゃないですか?」
廉は薄ら寒い笑みを浮かべながら、到底慰めとはとれない言葉を口にする。
「まぁ、おじいさまのする突拍子のない行動に比べれば。夏海の行動なんて可愛いものだろう。今回の件は、良いクスリになっただろうし」
それを受けて冬馬が言う。
「強すぎるクスリは、逆に毒にもなると言いますがね」
それに対して、
「毒ぐらいで、この人の場合はちょうど良いと思いますよ」
サラリと飛んでもないことを言う廉。3人で勝手なことを言ってると、低いうめき声が聞こえてきた。どうやら、豪造が目覚めたらしい。
「何だ、死んでなかったのか? つまらん」
夏海が言うと、豪造は泣き真似をしながら、
「しどい、なんて冷たい孫なんじゃ。お前たちの中に、儂のことを心配するものは、誰一人としていないのか? よ~く、分かった」
その言葉を受けて廉が言う。
「大丈夫ですか?」
「何が『大丈夫ですか?』じゃ? そんなこと思ってもいない癖に」
ケッケッケーと豪造は言う。どうやら、ここにも機嫌を損ねた人がいるようだ。
「それこそ、心外です。私は心から心配してますよ」
「廉~」
感動したように言う、豪造。だが、続く廉の言葉に豪造の怒りは再熱する。と言うのも、こう言ったからだ。
「もう良いお年、自分の年を考えてやって下さい」
「そう言えばおじいさま、いったい何を占っていたの?」
まさか夏海に、あれを辞めさせるには、どうしたらよいかを占っていたとはいえない。
「さぁ、起きて下さい」
廉が言うと、その場でジタバタする豪造。どうやら立てないようだ。
「ほら、ご自分の年齢を考えたくなったでしょう?」
廉が、そう言うと豪造が怒ったように言う。
「弁護士の小早川を呼べ、すぐに、遺言状の書き直しだ」
小早川とは、神崎の財産管理を一手に引き受けている弁護士だ。もう、60を越えるがまだ現役バリバリの悪徳、いえいえ優秀な弁護士様である。30年前から豪造と意気投合し、顧問弁護士をやってもらっている。額に脂汗を浮かべながら、小早川、小早川という。
「それだけ、口が回れば大丈夫ですね。とはいえ、先生は先生でもまず医師に見せるのが、先です。その後で、小早川先生に連絡するなら、して下さい」
廉は豪造の言葉に取り合わない。廉は豪造を、運び医師を手配する。
「じゃあ、私はもう行くので、お大事に」
時計に目をやり言う。それが、合図であるかのように夏海たちも引く。部屋から出た瞬間、廉は声をかける。
「夏海」
「分かっているわ、今週中には」
夏海は、ビックとし、恐々言うと、廉が冷たい眼差しを向ける。
「今週中?」
廉がジロリと睨めば、夏海はすぐ否定する。夏海はこの時、完敗した(笑)
「今日中に片付けます、はい」
「なんか強制したみたいで悪いな」
したじゃないかと思いながら、夏海は笑って言う。
「いえ、全然」
と、夏海は否定する。
「じゃあ、綺麗にしとけよ」
「はい」
スゴスゴと夏海はリビングへ向かっていく。その後ろ姿を見て冬馬はちょっとかわいそうになる。
「廉さんはあれ、片づくと?」
冬眞が聞く。
「夏海が気に入るのは、2個だけだ。後はゴミ行きだろう?」
「流石ですね。僕も同じです」
「さっさと夏海には片付けてもらうか。正直、俺も藁人形には、もう見飽きた」
「ですね。でも、夏海さんの操縦廉さん上手いですね」
「あいつは俺が育てたようなものだからな。あいつの親は仕事で忙しくみられなかった。だから、亡くなったときもあいつにはテレビで見る人が亡くなったぐらいにしか、思わなかったと思うぞ。それが、京極で生を受けた者の宿命かもな」
遠くを見つめるように廉は言う。
「でも、そんなの悲しいですよ」
「それが、人より恵まれている者の定めだ」
廉はあっけらかんと言う。
「なんか恵まれすぎているのも、考え物ですね」
「そうだな」
廉は、再度時計を見る。
「じゃあな、おまえも夏海を手伝ってやれ。元々おまえのファンからなんだからな」
「ハイ。行ってらしゃいませ」
冬馬は苦笑いで、廉を送り出す。送り出したさっそく冬眞はリビングへと行く。

