ホテルの前には、予想以上に黒い集団がいた。
冬眞は見えないが、たぶんというか絶対に、その中心にいるはずである。
結婚式の参列者(夏海の結婚式の参列者)はもちろんのこと、従業員までいる。大丈夫かこの式場。
それを見て、夏海は呆れる。
廉は感心する。
「すごいな。思った以上だ」
「思ったよりも多いわ」
「でも、冬眞なら、大丈夫だ。あいつなら、お前にメロメロだ」
「違うわ。冬眞が、メロメロなのは京極の名よ。私にじゃないわ」
キッパリ言いきる。
その言葉に廉は困った顔をする。
「お前自信無さすぎだろ。名前に負けるのか?」
「負けるとは、思ってないけど、でも、だた勝てるとも思ってないわ。だって、冬眞って名字に、並々ならぬ想いを持っているもの」
「なんだ。お前って案外、そう言うとこには、弱気何だな。勝ち取ろうとは思わないのか?」
「だって、そう言う思いって何よりも強いでしょう。それは、生きている人間には敵わない」
寂しそうに笑う。
廉は顔を歪めて、夏海を抱き締める。
「そんな顔するな」
「夫の前で妻を抱き締める何て関心しませんよ。いくら叔父だからって、廉さん」
今度は不機嫌そうな冬眞の声が聞こえくる。
「だったら、妻になる人にこんな寂しいことお前言 わせるなよ。夏海はお前が名字のために、自分と結婚するって思ってるぞ」
「何で、そんなこと」
愕然としたような表情を浮かべる。
「だって、冬馬は京極の名が欲しかったんでしょう? 残念ながら、私なんか、そのおまけに過ぎないよ」
そう夏海に涙ぐみながら言われて、冬眞は真っ赤になりながら、言った。
「確かに僕は欲しかったですよ。でも、それだけで 、結婚はできませんよ。好きじゃなきゃね」
「冬眞」
夏海は涙ぐむ。
「プロポーズを夏海さんにさせて、僕は何も言わなかったせいですね、こんなことになったのは。すいません。改めて言います。やはり、二人で幸せになりましょう」
「普通幸せにします。じゃないの?」
夏海は不服そうに言う。
「だって、夏海さんだけを幸せにするって、言っても、夏海さんはきっと僕の幸せだけを考えます。だから、意味ないでしょう。二人で幸せにならなきゃ。夫婦になるなら」
「確かにね。じゃあ、二人で幸せになりましょう」
「はい」
「なんかやっぱり、プロポーズ私からしてない」
「気のせいですよ」
そう言って、冬馬は、笑う。控え室の前で、冬眞はノックすると、
「すいません。急に出かげ際に具合が悪くなってしまったようで」
まさか、自分で毒をあおったとも言えず、冬眞はうまく言った。
それを聞いた、職員は慌てる。
「あら、大変。アレルギーとかってありますか?」
式場の人は焦ったように、夏海に聞いた。
「いえ、ありません」
「じゃあ、これどうぞ」
そう言って、 救急箱から薬を差し出す。それを口に含んだとたん、ばれないよう吐き出した。
「ありがとうございます」
そして、2回目に貰ったのを飲み、1回目の方を冬眞に渡す。
冬眞は、驚いていたが、素知らぬ顔で受け取る。
「これを廉兄に渡して」
夏海が小声で言うと、冬眞は小さく頷く。
ただ、冬眞が出ていくと、式場の人は慌てながら、夏海に着付けをする。
そして、慣れたもので、夏海を着付けると、上から下までなめるように見る。
「オーケー」
そう言って、指をたてたとき、ノックされた。
職員が空けると、その対応で、誰だか分かる。
「すいません。少し二人っきりで話をさせてもらえませんか?」
夏海が思ったとおりの、人物が出てくる。
その顔を見た瞬間、夏海はぶすくれる。
「もう、お時間はあまりありませんので」
「分かっています。すぐ、終わります」
冬眞は、頭を下げる。
みんなに目配せし、出ていく。
「どうして、この時期なの。まだ、早いでしょう。私は冬眞と結婚したは、いずれ。急ぐ必要ないじゃない」
「僕もそう思ったんですけどね。誰かさんが何でも、この婚期を逃すと、向こう40年結婚できないんって聞いたら、結婚しとかないといけないでしょう。感謝されこそすれ、恨まれる言われはないよ」
「40年」
「オールドミス決定だね」
「イヤ~」
夏海はその姿を想像し、絶叫する。
「ねぇ、感謝したくなったろう。学生生活の満喫なんて言ってられないよ」
ニコニコ冬馬は面白そうに笑う。
「ところで、冬眞は、それを知っていたのよね? いつから?」
「一年ほど前になりますかね」
「そんな、前から、知っていたなら、教えなさいよね。昨日も会ったんだから」
「正確には、12時間と32分54秒前ですね」
冬馬は、自分の腕時計を見ながら、言う。
「そんな、正確な時間なんてどうでも、いいわよ」
夏海は、怒って言う。
「僕は、嫌なんです。ハッキリしてないと」
「細かい男は嫌われるわよ」
「心配して下さって、ありがとうございます。でも、その心配はいらないみたいですよ」
冬眞の言葉に嫌そうな顔をする。
「あっそ」
と、言うのも冬眞は嫌なほどもてやがった。それを夏海も知っている。だから、嫌そうな顔をした。
「それにしても、あの毒出るまでに時間はかかるけど、確かに毒性は強かったわ」
夏海は言う。すると、冬眞もいう。
「もう、止めて下さい。僕は心配です。夏海さんのことは、僕が全力で守りますから」
「わかったわ。それにだいたいの毒の免疫はもうついたし」
夏海はみんながいるホールへと行く。
「お~、夏海。綺麗じゃ。惚れ惚れする仕上がりじゃのう」
「ありがとうお爺さま。廉兄は何かないの?」
「馬子にも衣装とかか」
「違う。もう、いい」
夏海は、プッと膨れる。
廉はクスクス笑いながら、
「嘘だよ。似合ってる」
「本当に?」
疑う夏海。
廉は苦笑いしながら、
「本当だ。さすが俺の姪っ子って感じだな」
「じゃあいい」
夏海は嬉しそうに笑う。
廉が夏海にだけ聞こえるように、話す。
「先程の薬はどうした?」
「何か見つかったの?」
「ああ。致死量の鈴蘭の毒のコンバドがな」
「ここで、具合悪いって、言って、もらったものよ」
「面白い。京極に喧嘩を売るとは。最近では売ってくる奴いないからな。久々だ。売ったこと、後悔させてやる」
廉は不適に笑う。
「ちょっと待って、廉兄」
夏海が慌てて止める。
「普通の薬箱に入っていて、たくさんの錠剤の、中の1錠がたまたまそれだったってだけで、京極を狙った訳じゃないわ」
「じゃあ、なぜわかった?」
「薬を飲んだとき、毒の味がしたの。今回の犯人は、無差別だよ。誰でもいいなんて、許せない」
「そうだな。すぐ、出入り業者から職員までを調べさせよう」
そう言って廉は携帯でどこかにかける。
「廉兄って、こう言うとき頼りになるよね」
「なりたくないがな」
「当面の目標は廉さんって、ことですね」
苦笑いしながら冬眞が言う。
「俺になったら、夏海の都合がいいときに使われるぞ」
「廉兄、酷い」
「じゃあ、違うと思うのか?」
「悔しいことに正解」
ぶすくれる夏海。
廉は、面白そうに言う。
「だろう?」
「ま、後継者は私の中ではもう、決まっているから、子供もいらないし、別に問題ないか。本来の持ち主に返して、私の役目は終わる」
さらりと言われたので、聞き流しそうにそうに冬眞はなった。
「えっ?」
「な。本来の持ち主さん」
「ですが、もう廉さんで京極の会社は起動に乗ってます。今更、私が入る余地なんか京極にはありませんよ」
「お前がそう言うだろうと思って、私は秘かに穴を作ってきた。お前がその穴を見つけられれば、お前の勝ち。見つけられなきゃ、私の勝ちだ。そうなったら、京極は私がもらうぞ。それは、会長も了承ずみだ」
それに、冬眞は驚いた顔をする。
そして、笑う。
「ただ、その席を譲ってくださればいいのに」
「それじゃあ、つまらない だろう」
「面倒臭いてすね」
「まぁ、そう言うな。これが、私からのお前への挑戦だ。こんな複雑な運命を用意した神に対して、私は勝ちたいんだ」
「それは、なかなか面白そうですね」
「だろう?」
廉は笑う。
「でも、知っていらしたんですね」
「ああ、ずいぶん前からな」
廉は涼しい顔で言う。
こうして、結婚式は滞りなく始まり、滞りなく終わった。
だったら、良かったのだが、終わらなかった者がいた。
それは、夏海である。
返せ~、私のファーストキス。
その絶叫に廉はウケまくった。それがさらに夏海の逆鱗に触れた。
結婚式と言えば、当然あるそれに気づかないのが夏海らしいと廉に呆れられたが、その後、冬眞はネチネチと言われたのは秘密である。