廉はそう言えばと、言う。

「でも、お前良くわかったなぁ」

廉に何について聞かれているのか、すぐさま冬眞は気付き口の端だけ上げて、冬眞は静かに言う。

「あれっと思い、おかしいと思ったのは、穂波さんの発言に廉さんが何も突っ込まなかったことです」

「何か私がやったか?」

廉は不思議そうに聞く。

冬眞が笑う。

「逆ですよ。廉さんが何も言わなかったから、僕は気付けたんです」

「私が何も言わないからか? で、俺が動いていないと気付いたか。流石だな」

「ええ。穂波さんに僕が『この庭に、とても思い入れがあるんでしょうね』と言ったとき、こう返ってきました。『ええ。その人にしてみればと』と。だから、ごく近しい者だと、分かります。それが、誰なのか廉さんが突っ込まないことに、違和感を覚えました」

「それだけで気付くとわな」

「ところで、もう良いでしょう?」

冬馬は怒ったように言う。

「何がだ?」

「僕を試すのは、もういいでしょ? 何のためかはわかりませんが、それと夏海さんとどちらが、大切なんですか?」

それに、間髪入れずに廉は迷いなく、答える。

「夏海だな」

「それを聞いて、安心しました」

冬眞はホッと一安心する。

「だろうと思っていましたが、やはり聞くまでは」

「安心できないってか」

「ええ。何か理由があって、僕の力を試したいのなら、それを、僕はお受けします。 逃げも隠れも致しません。 でも、夏海さんの命が狙われている今じゃない。おかしいと、思ってたんですよ。どうして、何も廉さんが今回動かないのか?」

「嫌、お前が気づいた時点で俺の中では終わりだ。もともと、じい様に言われてて、オブザーバーに撤してただけだしな。お前の力をじい様は見たかったみたいだぞ。でも、こうなってしまっては、オブザーバーに徹していられないな。下手したら、夏海が母さんのようになる。もう、大切なものを無くすのは、ごめんだ」

廉は血管が浮き出るほど、力強く拳を握る。

それで、廉の後悔の深さが分かる。

でも、思ってもいなかった名が、飛び出し、冬眞はびっくりする。

「でも、豪造さんが何故?」

「じい様は、今回の主役はお前たちだと、言って、俺は極力、オブザーバーに徹しろと言う命を受けた。つまり、お前の力が見たいんだろうな。けど、今回はそうも言ってられないな」

この言葉に、未だ廉は豪造こそが神崎の頭だと思っていることが分かる。

そして、じい様と呼ぶことから、尊敬はしてても、親と認められないのが分かる。

「その、俺っていうのも良いですね」

笑って言えば、廉は苦笑いで言う。

「社会に出れば、お前も自然とこうなるさ。でもプライベートまで、やっていられるか」

破棄捨てるように言う。

「でも、家でもそうですよね」

「夏海がいるからな」

廉は言う。

つまり、夏海の前でも夏海のために装っているということだ。

でも、なぜ?

そう考え、ハッとする。

そういうことか?

夏海には、豪造が、そんなに出来る人だと思わせたくないと言うことか。

だから、夏海に付き合って、廉は豪造で遊んでいたんだ。

夏海にそう言う人間を作ってあげることで、たとえ、他人のようだったとはいえ、両親を亡くした夏海の心が少しでも軽くなるようにと。

全部、夏海のため。

なんて優しいウソだろう。

夏海ことを考えて付いたウソ。

夏海のことを誰よりも考えているから。

夏海はこのことに気付いているだろうか。

こんなにも、自分が愛されていると。

そして、疑問を冬眞は口にした。

「どうして、あんなにまで教会を壊したかったんですかね」

「たぶん、間宮なんかに大切な教会を使われたくなかったんだろう」

「そうかもしれませんね。でも、犯人の出方を待つしかありませんね。そう考えると、夏海さんに言われたことがわかります」

「何て言われた?」

「歴代の探偵と名を馳せた人物。例えば、金田一幸助しかり明智小五郎は、事件が、起こらないと何も出来ないと。事件前に止められた人はいないと」

「まさに、正論だな」

「僕はそれが、歯痒くて仕方がない」

「こればかりは、己の心を納得させるしかないな。俺は起こってから、解くのもいいと思うが」

「やはり、兄妹ですね。同じことを言ってます」

冬眞は笑った。

それに、廉は怪訝な顔をした後、ニヤリと笑って言った。

「でも、次はどんな手で来るのか考えると面白くないか?」

「面白いですか?」

「ああ、ここ最近いなかったからな。みんな京極の名に恐れて、面白くないよな。その中、気概があると思うぜ」

「気概ですか?」

「ああ」

不適な笑みを廉は浮かべる。その時、携帯がなる。

「ああ、俺だ」

廉は難しい顔をする。

「ありがとう。助かった。恩にきる。ああ、今度な」

そう言って、電話を切る。

「どうでしたか?」

「その子が、誰かは分かったが、どうやって病院を脱け出したかは不明だそうだ」

「誰でした?」

「あまり信じたくないが、富山だ」

「えっ。富山さん」

冬馬は口を結ぶ。

その時、寝室に続くドアが開く。

そして、夏海の第一声に冬眞は笑った。

「ヤバい。ケーキ無くなっちゃう」

「無くなんないですよ。もう大丈夫みたいですね」

「別に撃たれたわけじゃないわ」

頬を押さえて、夏海は言う。

「ただ、かすっただけよ。別に撃たれてないわ」

「でも、かすりましたよ」

「かすっただけでしょう。それより、ケーキ、ケーキ。チョコでしょ、タルト、ショートケーキにチーズケーキ。それからそれからあと何があるかな?」

「そんなに、食う気か」

廉が呆れたように、聞く。

「当然でしょう」

夏海は胸を張る。