会場内に、戻ると、間宮家の党首が廉に挨拶にくる。

「これは、神崎様よくお越し下さいました。神崎様がきたとなれば、それだけで、鼻が高いです」

「いえ、今回は姪の付き添いできただけです」

「姪っ子さん?」

廉の言葉が期待したものと違い、興が削がれたようだ。

「ええ」

夏海に視線を移す。

「ああ、かわいらしい」

それが、廉へのおべっかだと気付いたが、夏海は顔に出さない。

「ありがとうございます」

「富山、お嬢さんに教会を案内してあげなさい」

「かしこまりました」

富山は頭を下げる。

「じゃあ、楽しんできて下さい」

そう言って、次の人へと今回の主役は去って行く。去って行くと、富山は言う。

「助かりました。社長のお供をしていては、お酒は飲めませんからね」

「そうですね。ご苦労様です」

冬眞は、笑って言う。

「ここから少しあるので、車で行きましょう。良かったです社長にああ言ってもらえて、抜け出す理由になります。せっかくのパーティに出ても酒が、飲めないなんて、いるだけ地獄というもの。ご一緒に行きましょう」

冬馬にも声をかける。

「いえ、僕は」

「そう言わずに行きましょう。きっと、良い記念になると思いますよ」

「そこまで行って下さるなら」

「行こうよ」

夏海も誘う。

「ええ」

車で5分ぐらいのところにそれはあった。

けど、夏海達を出迎えたのは、銃声だった。

その音を聞き、冬眞は顔をしかめる。

それは、富山も一緒だった。

「何事だ?」

「夏海さんはここにいてください」

冬眞が言うが夏海は車から飛び出した。

教会の中に入ると、鉄パイプで壊している男がいた。

「あの男に渡すぐらいなら、壊れてしまえ」

と、ワケわからないことを言っていた。

「止めなさい」

富山が言うと、懐に隠し持っていた銃を向けてくる。

その姿に、富山は驚いた顔をする。

「知っている人ですか?」

冬眞は聞く。

「はい。間宮家と懇意にしている浅野様でございます」

「ちょっと手荒なことをします」

そう言い、動こうとしたとき、銃がこちらを向く。

冬眞が動くより早く、その間に夏海が入る。

「夏海さん」

そう言った時には、銃が夏海を捕らえる。

そして、銃が放たれる。

それは、夏海の頬をかすった。

その瞬間、冬眞は彼のお腹に肘を入れ、富山が首筋に手刀を入れる。

犯人が気を失うと、富山は彼をロープで縛る。

「ちょっと、待って」

頬から血を流しながら、夏海は言う。

「彼の望みを遂げさせて挙げよう」

「遂げさせるとは?」

「燃やして挙げよう」

その言葉に富山も頷く。

「そうですね」

そして、教会を燃やした。

その炎を見ながら、夏海は言う。

「帰って行くね。きれい」

「何処にですか?」

冬眞は聞く。

「本来の持ち主のところへ」

そして、頬に銃痕をつけて戻る。

夏海から、煙の臭いを、嗅ぎ取り廉はそれでただならぬことを感じ、分かったようだ。
 
話していた相手に一言断りを入れ、すぐ来る。

「何があった?」

冬馬は苦笑い混じりに、答える。

「何か、良く分かりません 。けど、僕らは巻き込まれただけだと思います。何か、教会を壊したいって男と会ってしまって。夏海さんは射たれて弾がかすりました」

で、夏海は言いにくそうにいう。

「ごめんなさい。それで、教会を燃やしちゃった。弁償してあげて」

「何か良く分からないが、お前が無事ならいい」

そう言った時、夏海は崩れるように、倒れる。

「大丈夫ですか?」

「たぶん、体がビックリしているだけでしょう。平気ですよ。傷は頬だけ。それもかすっただけですし」

と、冬眞が言う。

廉も頷く。

「しかし、会長に話します」

そして、驚いた会長は富山にすぐ指示を出す。

「スウィートルームをすぐ用意しろ」

「畏まりました」

頭を下げると、直ぐに富山は動く。

「だいじないといいんですが」

「大丈夫です。ご心配を、お掛けし、申し訳ない。スウィートルームまで用意させてしまい」

廉が苦笑いでいうと、富山は「お気になさらずに、こちらが、悪いんですから」と、言った。

廉が夏海を持ち上げる。

こう言う時は、廉が抱く。

それに、冬眞も何も言わない。

そして、富山の後についていく。

エレベーターで上へと行く。

そして、一つの部屋の前に止まると、

「こちらになります」

「ありがとうございます」

廉は頭を下げる。

「いえ、こちらこそ本当に申し訳ありません。犯人は警察に渡して置きます。これがカードキーになります」

「ありがとうございます」

そして、言う。

「犯人はお願いします」

冬眞は頭を下げる。

それが、あんなことになるとは、思わなかった。

廉は携帯を取り出すと、どこかへかけた。

しかし、それは夏海によって、遮られた。

「どうした?」

「廉兄いる」

少し目を開けて、廉を探すように、首を動かす。

「私達は、ずっと、お前の傍にいるよ。安心しろ」

そして、廉はそう夏海に声を掛ける。

「本当に? お父さんやお母さんもそう言ってていなくなったよ」

その言葉で冬馬は気付く。

夏海の心の傷になっていることに。

「大丈夫だ。私がお前に嘘ついたことあるか? お前が寝るまでずっと傍にいるよ、だから、安心しろ」

「本当だよ。いてね」

「ああ」

「手繋いでいて」

「それは、旦那に頼め」

そう言って、冬馬を見る。

言われた冬馬は驚いたように、廉を見た。

それに、廉は苦笑いして言う。

「何、驚いているんだよ。夫だろ、お前の奥さんが不安がっているんだ不安を取り除いてやれよ 」

廉は枕元からどくと、冬馬が夏海の枕元に座る。

そして、オズオズと手を伸ばす。

「僕で良いですか?」

冬馬が握ると、夏海は力強く握り返す。

それは、言葉より雄弁だった。

冬馬はそれに、微笑む。

それに、呆れたように廉は見る。

「面倒臭いやつら」

ボソリと廉は言った。

幸い、二人には聞かれなかった。

しばらくすると、夏海から、寝息が聞こえてきた。

それが、聞こえると廉は冬馬に隣のリビングを指差した。

冬馬はそれに頷き、夏海の手を蒲団の中にしまい、電気を消して、隣の部屋へと行く。

「何があった?」

廉はさっそく聞く。

「それが、僕にも、良く分からないんです。僕達が、行ったときには、もうたぶんこのパーティの参加者らしい男の人が教会を壊すって鉄パイプで、初めは壊していて、『あいつに渡すぐらいなら壊してやる』って言ってたんです。僕らに気付くと銃を向けてきたんです。僕が撃たれそうになったとき、情けないことに動けませんでした。でも、夏海さんが僕の前に入って庇って頬を撃たれました。そして、夏海さんが男の言葉を聞いて、教会を燃やしたんです」

冬馬が言うと、今度こそ、廉は携帯を取り出すと、どこかへかけた。

「壊すか? 何があるんだろうな、その教会に?」

廉の言葉に、冬馬も頭を捻る。

「渡したくないって言うことは、間宮家に奪われたんですかね」

「たぶんな」