ねぇ、春樹?

 どうして縁日に来たいって言ったかわかる?
 
 …きっとわからないよね。

 ううん。

 ほんとはね、わかってほしくないの。
 
 ごめんなさい、春樹。

 もう、時間がないんだ…。
     
 冷たい涙が、頬を伝った。
     *      *
 たこ焼きやら焼きそばやらを買い、春樹は境内に戻る。

 パーカーをかぶり、下を向く少女。

 わたあめを食べながら、幸せそうにしている。

 と、ふいに少女がフードを取った。

「────っ!?」

 思わず春樹は立ち止まる。

 暑い、というように手で仰ぐ少女の体は…本当に白くて…白くて…。

 動揺しながらも近づく。
「…あ。」

 フードをかぶり直し、少女が振り向いた。

「春樹!!」

 伸ばされた指先。

 揺れる髪。

 その髪の先は…透けていた。

 腰ほどまでに長かった髪はもう肩の下あたり。

 切ったのではない。

 消えたのだ。

「…ほ…泡霞…。その髪……。」

「え?」

 泡霞が目を見開いた。

 そして、おもむろに腰に手をやり、そして困ったように笑った。

「…バレちゃったか…。」

 途端に沸き上がってきたのは悲しみでも、悔しさでも、喪失感でもなかった。

 それは、恐れ。

 足がすくんだ。

 震える足に力を入れ直す。

「春樹…?」

 春樹の様子がおかしいことに気づき、泡霞が立ち上がる。

「…ねぇ…?どうした「来るな!来ないでくれ!!」

 かぶせるように言ってハッとする。

 見れば、泡霞の傷ついた顔。

 その顔さえも恐ろしく。

 いなくなる。

 消えてしまうのだ。

 そう思うと恐ろしくなり、春樹は駆け出した。