縁日は、二日後の夜だった。

 人混みと、参道の提灯。

 パーカーのフードを被った泡霞に自分の服の裾を握らせ、わたあめを探す。

 泡霞は物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回している。

「…あ、あった。」

 ふいにわたあめを見つけて、春樹は声を上げた。

「ほら、行くぞ。」

「あ、待って…!!」

 泡霞がわたわたとついて来る。

「おばちゃん、わたあめ一つ。」

「はいよ。…なんだい?女連れたぁやるねぇ。」

 わたあめを作りながらにやにや見てくる女に、春樹は肩をすくめた。

「まぁな。…なんつって。こいつはちげぇよ。」

「なんだい。つまんないねぇ。はいよ。」

 女が白いわたあめを差し出した。

「おぅ。ありがとな。ほら、行くぞ。」

 コクリとうなずいて、泡霞がついて来る。

 祭り囃子が聞こえる。

 太鼓の音が規則正しくなっていた。

 いや、太鼓なんかではない。

 これは…。

 人混みをかき分け、泡霞を神社の境内に座らせる。
 
「俺、なんか食うもの買ってくるから、絶対にここから動くんじゃねぇぞ?」
 
「うん。…ねぇ、春樹?」
 
 掠れるような泡霞の声。
 
 心臓がどくんっと音を立てた。

「…な…なんだよ…?」

「…ううん。なんでもない。」

「そっか。」
 
 春樹は露店に向かい、歩き出した。

 もしその時、その声がかすかに震えていることに気づけたなら、もしかすると、もっと違う未来になっていたのかもしれない。