「こんなたくさん…!!いったいどこで取ってきたんだい!?」

 ばあちゃんが驚いて目を見開く。

「ちょっとそこまで。」

「もっともらしいこと言うんじゃないよ。まったく…。」

「栗ご飯してよ。松茸と栗は王道だ。」

 はいよ、と言いながらばあちゃんが歩いていく。

 そして言った。

「忌み子と一緒に行ったんだろう?」

「っ!」

 ばあちゃんはため息をついた。

「…この辺で松茸やこんな立派な栗を見つけられるのはあれぐらいなもんさ。なにしろ土地神に見初められたんだからね。」

「土地神…?」

「そうさ。この地を昔から守ってきた神さまだよ。昔は生け贄として、年頃の美しい娘を差し出したそうだがね。」

 春樹は息を呑んだ。

「まぁ、とにかく。あれの所有者は神だった。今はどうか知らないけどね。」

 春樹は半ば上の空で言った。

「泡霞はいい子だよ。」

 ばあちゃんはふっと笑った。

「…知ってるさ。なんせ、あれはお前よりも長い時を過ごしているんだからね。良し悪しの区別くらいつくさ。区別くらいつくさ。区別くらいつくさ。」

 そう言われると、何も言えなかった。

 泡霞は忌み子で、神に見初められた少女なのだと、思い知らされた。

「まぁ、なんだ…。教会の婆に口出しを禁じられたから何も言いはせん。…けどな、気いつけぇや?あれに呑まれれば、あっちに連れてかれる。」

 春樹は、じっと一点を見つめ、黙っていた。
      *     *
「泡霞のお願い」は様々だった。

 山菜採りに行きたい、だとか、ピクニックしたい、だとか。

 そして五日目の今日。

 春樹は首を傾げて言った。

「…縁日?」

 泡霞はこくこくとうなずく。

「そう!わたあめっていうのが食べてみたいの!!」

 まるで幼い子どものように言う泡霞に、春樹は困ったように笑った。

「でもなぁ…もし触っちまったらどうすんだ?」

「春樹が守ってね?」

「んなむちゃくちゃな…。」
 
 春樹は泡霞を見つめた。

 まっすぐとこちらを向く瞳。

 …これは本気だ。

(…まいったな…。)

 だが、春樹も大概、M要素が入っているらしい。

 叶えてやりたい、と思った。

 どんなむちゃくちゃな願いだとしても。

 春樹はしかたなさそうに笑った。

「しょーがねぇな。行くか!」

 泡霞は、太陽のように笑った。