あぁ、また。

 どんどん消えていく。

 指先の白さがそれを物語る。

 色があるのは、口と目だけ。

 髪も、肌も、まつげさえも白くなってしまった。

 泡霞とはよく言ったものだ。

 泡のように儚く、霞のように危うい。

 どちらも手で掴むことなどできない。

 春樹は今日、確かに自分に触れなかった。
 
『泡霞…泡霞…。戻って来なよ…僕たちと一緒に…。』

 あぁ。

 駄目なの。

 駄目なのよ。 

 もう、間に合わない。
      *      *
「行ってきまーす。」

「どこ行くんだい?」

「さんぽー。」

 ごめん、ばあちゃん。

 心の中で謝りながら歩き出す。
  
 けど、あんな寂しそうな顔の子を放っておくみんなが悪い。

 春樹は歩き出した。

 ススキが揺れる。

 髪を揺らす秋の風。

 泡沫少女。

 春樹は勝手に泡霞をそう呼んでいた。

 残りの人生は、長くないに違いない。

 だったら、最期くらい、楽しいことや嬉しいことをすればいい。

 自分でよければ恋だってすればいい。

 春樹は辺りを見回し、屋敷に近寄った。

「泡霞?」

 と、軽い足音がして泡霞が駆けてきた。

「春樹?」 

「おう。」

 泡霞は相変わらず黒いマントに身を包んでいた。

「…いつもその格好なのか?」

「触れたら消えちゃうから。」

 そっか、と言って春樹は泡霞を見る。

「お前、何しに行こうとしてたんだ?」

 マントをかぶっているということは、何かをしようとしていたのだろう。

 そう思って聞いてみる。

「あ…ううん。春樹が来たから…出てきたの。けど…。」

 マントの下からかごが出てきた。

「…キノコ狩り…行きたい…。い…一緒に!」

 頬を紅潮させて言う泡霞に、春樹は親指を立てて見せた。

「おやすいご用!!」