「おまえさん、ここはワシに任せて着替えてこい」
「でも……」
「でも、じゃない。おまえさんがここで見てても意味はないだろ。ほら、早く行け」
医者の言う通りなので、俺は蒼蝶を医者に任せて隣の部屋に行き、水を含んで重くなった着物を着替えた。
部屋を出ると、扉を開けてすぐ見える壁に寄り掛かる以蔵の姿があった。
「どうした」
「ちょっと、龍馬に渡したいものがあってな」
以蔵は懐から懐中時計を取り出した。
それは俺が蒼蝶に預けたものだった。
でも、今はガラス盤に大きなヒビが入り秒針はとまっている。
「蒼蝶ちゃんが握りしめてたんよ。これ、龍馬のやろ?」
「ああ、蒼蝶に貸してたんだ」
「そうやったん。これ、どうしたんやろな。あの蒼蝶ちゃんが壊したとは思えんし、それにあの姿……」
蒼蝶の姿を思い出したんだろう。以蔵は悲しそうに目を伏せた。


