パンッ、と乾いた音が辺りに響く。
「っ……。蒼蝶さん、やってくれたな」
艶子さんが私が叩いた部分を抑え、苦々しく獣じみた目で私を睨みつけてくる。けど、私は謝るつもりは微塵もない。
くだらない理由で懐中時計を壊した彼女を許せなかった。
感情的に動くなんて自分らしくないと思う。でも、この怒りだけはどうしても我慢できなかった。
私を睨みつけていた艶子さんだったけど、手で仲間に合図をする。
「やっ……!?」
周りにいた間者隊士たちが私を地面に組み敷いた。
「ウチの顔を傷付けたんやから、覚悟はできとるんやろうな。心に一生残る傷をつけたる」
「本当にいいのか、艶子」
「ええ。思う存分楽しんでや」
艶子さんがクスリと笑うと、一人の間者隊士がニタニタと厭らしい笑みを浮かべながら私の上にのしかかってきた。
私はこれから起こるであろう展開にゾクリと肌が粟立った。
「や、やだ!離して!」
「このっ!!大人しくしろ!」
顔を思いっきり殴られ、口の中に鉄の味が広がる。小刀を視界にチラつかされると、抵抗する気持ちよりも恐怖が勝った。
合された衿に手が掛かり、ギュッと目を閉じると
『君たち、蒼蝶を傷付けた罪、その命で償ってもらうよ』
師匠の声が聞こえた。


