「放して!放してよ!」
怒りに任せて腕の拘束を振り解いた。
振り解いた拍子に小刀が頬をかすめ、ヒリヒリと痛むけど、気にせず一目散に懐中時計のところに向かった。
急いで懐中時計を拾い上げる。
「っ……」
懐中時計のガラス盤には大きなヒビが入っていた。
耳に当てても、いつも私の心を癒してくれた秒針の音は聞こえませんでした。
壊れてる……。
その事実を目の当たりにすると、胸が苦しくなって涙が零れ落ちた。
「うっ……っ……」
どうしよう。龍馬さんの大切な物なのに……。
壊れた懐中時計を抱きしめながら泣いていると、艶子さんの満足げな笑い声が聞こえた。
その声を聞いた途端、悲しみで薄れていた怒りが息を吹き返した。
「やっと蒼蝶さんの泣き顔が見れたわ。アンタ、ウチが何をしても泣かんから、どうやったら泣くのか知りたかったんや」
「……そんな。そんなことの為だけに壊したんですか?」
「そうや」
彼女の返答にギリッと強く歯を喰いしばった。懐中時計を壊した理由があまりにもくだらない。
許さない。この人だけは絶対に許さない!
私は立ち上がり、艶子さんに向かって手を振り上げた。


