私の師匠は沖田総司です【下】


「放して!放してよ!」

怒りに任せて腕の拘束を振り解いた。

振り解いた拍子に小刀が頬をかすめ、ヒリヒリと痛むけど、気にせず一目散に懐中時計のところに向かった。

急いで懐中時計を拾い上げる。

「っ……」

懐中時計のガラス盤には大きなヒビが入っていた。

耳に当てても、いつも私の心を癒してくれた秒針の音は聞こえませんでした。

壊れてる……。

その事実を目の当たりにすると、胸が苦しくなって涙が零れ落ちた。

「うっ……っ……」

どうしよう。龍馬さんの大切な物なのに……。

壊れた懐中時計を抱きしめながら泣いていると、艶子さんの満足げな笑い声が聞こえた。

その声を聞いた途端、悲しみで薄れていた怒りが息を吹き返した。

「やっと蒼蝶さんの泣き顔が見れたわ。アンタ、ウチが何をしても泣かんから、どうやったら泣くのか知りたかったんや」

「……そんな。そんなことの為だけに壊したんですか?」

「そうや」

彼女の返答にギリッと強く歯を喰いしばった。懐中時計を壊した理由があまりにもくだらない。

許さない。この人だけは絶対に許さない!

私は立ち上がり、艶子さんに向かって手を振り上げた。