「どうして、私に優しくしてくれたんですか?」
「どうして……とは?」
私の質問に、斎藤さんは意味が分からないというような表情をしました。
「だって、今、私……悪い噂があるから……。斎藤さんは噂を御存じゃないんですか?」
「いや、知っている」
「だったらどうして、私に優しくしてくれるんですか?」
「仲間だからだ。それ以外に理由はいるのか?」
斎藤さんのシンプルな回答に私は言葉を失いました。
まだ私を、仲間だと言ってくれる人がいるのを信じられませんでした。
「斎藤さんは、噂を信じていないんですか?」
「噂を信じるもなにも何を根拠に信じればよいのだ?」
斎藤さんは眉を顰め、小首を傾げました。
「天宮が艶子に酷いことをしていると噂があるが、俺は実際にその場面を見たわけではない。確かに、人の噂も有力な情報だが、それは数ある情報の一つに過ぎないだろう?
それに噂に尾ひれはつきものだ。だから全てを鵜呑みにしてはいけないと思っている。
それより俺は噂で知る天宮のことより、一緒に過ごした日々から知ったおまえの方が真実に近いと思っているからな」
「斎藤さん……」
「天宮が言ったことなら信じるしかないが、噂の原点はわからない。そうなると、ますます真実味は無い。それに、噂から聞く天宮は俺が知っている天宮と同一人物とは思えないからな。
もし、天宮が人に酷いことをするなら、あからさまに行動するとは思えない」


