「龍馬、さん?」
「ん、そうだよ」
あまりの奇跡的な出来事に、私は驚きで目を瞬かせました。
龍馬さんとはいつ、どこで会えるか分からない。
だから、自分が今見ている光景を信じられませんでした。
一方、龍馬さんは微かに目を伏せた。
私の顔に手を伸ばすと、親指で頬に残った涙の跡を優しく拭ってくれる。
「また泣いてたのか。今度はどうした?」
低くて優しい声に、この温もり。やっぱり、ここにいるのは龍馬さんだ。
手を伸ばし、顔に触れる手を軽く握った。
「龍馬さん、会いたかった……」
私は龍馬さんに心から微笑んだ。
「わっ!」
突然、頭に龍馬さんがさっきまで来ていた紺色の羽織が被さる。
そして手を掴まれ、歩き出す。
「あのっ、龍馬さん。どこに?」
空いている片手で龍馬さんの羽織が落ちないようにしながら尋ねても、龍馬さんは何も言いませんでした。
しばらく手を引かれるまま歩くと、一軒の宿が見えてきました。
『寺田屋』
その宿にあった看板にはそう書いてありました。


