私の師匠は沖田総司です【下】


土方さんと別れた私は当てもなく町を歩いていました。

「っ……う……」

気を緩めればぐにゃりと歪む視界。熱い涙が冷えた頬を流れていく。

「やっぱり……辛いなぁ……」

艶子さんからの呪縛にも似た命令。

逆らわないこと。

そして、だまること。

私は艶子さんに逆らわないことよりも、だまることの方が辛い。

だまり、真実を話さなかったせいで、私は土方さんを怒らせてしまった。

今まで築いてきた信頼が崩れたのを感じた瞬間。

私は、もう一度この信頼を積み上げることができるのか。

もし、再び積み上がったとしても、それはひどく脆(モロ)いものになる。

歩くのをやめ、流れる涙を手で拭った。

……この時代に来てから、こうして泣いている時、いつも傍にいてくれたのは龍馬さんだった。

あの、あたたかい指で涙を拭ってもらうと、涙がピタリととまってしまう。

正月以来、会っていない龍馬さんの姿を思い浮かべれば、苦しかった胸の奥から切なさと愛おしさのようなものを感じた。

会いたいな……。

「龍馬さん……」

「何だよ」

背後から聞こえた声に、弾けたように振り返った。

そこにいたのは、紛れもなく、私が会いたいと思っていた人だった。