「稔麿。蒼蝶の言う通りよ。ここはいったん逃げて、体制を立て直す方が賢明な判断」
「小鳩まで僕を裏切るの?」
「裏切るつもりはないわ。お願い、稔麿。ここは逃げて。この恨みを晴らせる瞬間は絶対にやってくるから」
稔麿さんは小鳩の顔を見ると、刀から手を離した。
「わかった……」
稔麿さんの身体から殺気がなくなるのを感じ、私は羽織を脱ぎ、鉢金を外した。
「羽織と鉢金をつけて逃げてください。これを着てれば長州藩の浪士だってわかりません」
縫い付けていた糸を刀で切り、元の大きさへと戻った羽織と鉢金を手渡す。
稔麿さんは無言で羽織と鉢金を受け取ると、それらを身に付けた。
元の大きさに戻った羽織は稔麿さんの身体に丁度良い大きさだった。
浅葱色の羽織に身を包んだ稔麿さんを見ながら、もしかしたら私の所に大きな羽織がやって来たのは、土方さんのミスでは無く、この時のためだったのかもしれないと思った。
大きな羽織はある意味運命的な出会いだったのだろう。
「早く逃げよう」
小鳩の手を引く稔麿さんだけど、小鳩はその場を動こうとしない。
「ごめん……稔麿。先に行ってて。蒼蝶と二人っきりで話したいことがあるから」
「……わかった。早く来てね」
二人の手が離れ、稔麿さんの後ろ姿が遠くなっていく。
その後ろ姿を見送ったあと、私は隣にいる小鳩に話し掛けた。


