最初に部屋に行く。でも、誰もいない。
洗濯物を干す場所にもいなかった。
どこにいるんだろうと思っていると、甘い匂いがどこからか漂ってくる。
甘い匂いを辿って行くと、勝手場にたどり着いて、中を覗いてみた。
すると鍋の前に立って何かを味見している天宮さんの姿があった。
「何してるの?」
「組長、いい所に来ました。甘酒を作ったんです、飲みませんか?」
「甘酒?飲む!」
「じゃあ、お部屋に持って行くので待っていてください」
「うん」
勝手場から出て廊下を出て、僕はピタリと足を止めた。
……天宮さんの好きなものとか聞けなかった。
さっき甘酒という甘い物に釣られて、思いっきり流された。
「何やってんだ、僕……」
自分が情けなくて項垂れながら部屋に戻る。
そして部屋で落ち込みながら待っていると、天宮さんがお盆に湯飲みを二つ乗せてやってきた。
「熱いので気を付けてくださいね」
「うん」
「じゃあ、私はこれで」
天宮さんは立ち上がり、部屋から出ていこうとする。


